一月 「遊んでなんぼのこの世界」

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 ―――しかし  生徒たちは、なんとなくではあるが、その『たった一名の部員』が誰であるかを薄々感づいていた。 「―――はい!じゃあ、この問題は……花山!」 「はい。『4x²+x‐3』かと…」 「流石花山だな~みんな! 花山を見習えよ! 松本なんかまた昨日の宿題忘れちゃったりしてさァ……」 「お、おれは関係ないっしょ!」 ハハハハハ…… 「…………」  私立泉南高校 2―B組 25番  花山 桐江(はなやま きりえ)  成績優秀な一方で、賽目とは対照的にどこか近よりがたい雰囲気を醸し出すこの女生徒。  私服登校が容認されているこの学校で少数派である学校指定の制服を着用して登校するこの少女は、初めてクラスの光景を見た者でも少し浮いているのが分かるほどにクラスへの溶け込みがうまくいっていない奇異な存在であった。  美しい黒の長髪  163㎝という女性としては高い身長  奥二重の一方で長い睫毛を備える三白眼  これらの諸要素は彼女がもう少し異なる様相をとっていたのなら、学園きっての秀才マドンナ、或いは才色兼備の大和なでしことして生徒たちからの羨望の眼差しを受けていたのかもしれないが、そこいらの制服規定の学校のものより長いスカートや目を覆い隠すような丸眼鏡。  そしてなにより、ほとんどの人と必要最低限のこと以外一切話そうとしない無口な態度は、他生徒が彼女の隠された魅力に気付く前にその関心を失わせ、結果として現在のような『真面目だが少し浮いた生徒』という立場がクラス社会の中で築き上げられたのである。  そんな彼女が何故【娯楽部】部員として噂されるようになったか?  無論、それは賽目の彼女に対する態度である。  確かに賽目は生徒に分け隔てなく接する理想の教師であったが、こと花山のことになるといつにもまして精力的な態度を見せる。昼休みの際にもわざわざ彼女を数学準備室まで呼びだして食事を共にし、先ほどのように授業中に当てることもしばしばである。  それは彼女が成績優秀だから――――ではなく、賽目と彼女の間に何か「特別なもの」があるのではないかと推測するのは、賽目と花山の会話の節々にどことなく感じる親密さを、生徒たちが感じていたことに他ならない。
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