一月 「遊んでなんぼのこの世界」

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 ―――スゥ  コンコンッ 「あをによし」 「あかよろし」 「開いてるよ~ん」  最初の暗号を機械的に言っていたのとは真逆に、倉庫内から気の抜けたような声が返ってくる。  それはつまり、私が曲者ではないかという「警戒」が解けたという事に他ならないのだ。 私は引き戸のドアを右手でつかんで、静かに、そしてゆっくりと倉庫の扉を開ける―――  ガラガラガラ―――  ピシャッ  でも、閉めるときはテキトーなのだが。 「あの……止めませんか? この合言葉」 「えぇ~いいじゃんいいじゃん! なんか秘密の会合って感じで!」 「まぁ、本当に『秘密』なんですけど……」  私が所属する【娯楽部】の活動場所は学校裏門近くにある古い空き倉庫であり、「先生」がこの学校に着任した4年前に使われなくなっていたこの倉庫を清掃し、曲がりなりにも部室としての機能を存分に発揮してくれている。  しかしながら、年月による風化というものは凄まじいもので、中を清掃してもなお所々に壁や床のシミや汚れ、塗装のはがれた部分が目立ち、初めて部室に入った人間には4年前と変わらず廃倉庫としてみなされることだろう。  一応机、椅子は数体用意されているが、現段階では―――というか、恐らくこれからも顧問一人部員一人という状況なので、部室内は向かい合わせになった二組の机と椅子のみが並べられるのみで、他のものは奥の方で山積みになっているのが現状だ。  さて、そんな私たちの遊びはというと…… 「さぁさぁ、さっそく始めましょう! 『すごろく』!」 「またですか。仮にも【娯楽部】なんですからもっと他の遊びとかやりましょうよ」 「えぇ~いいじゃない! 楽しいんだから!」 「こっちは全然楽しくないですよ! 先生が強すぎていっつも勝てませんから」 「おやおや? まさか前回の10ターン差スタートでの敗北のトラウマがまだ響いてるのかな?」 「……五月蠅いです。早くやりましょう。今日は勝ちます!」 「そう来なくっちゃね~」  そう、基本的にボードゲームしかやっていない。
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