一月 「遊んでなんぼのこの世界」

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 NEACが教育において指導権を握って以降、秦の始皇帝の焚書坑儒の如く日本の娯楽文化を代表するような製品や玩具には徹底した破棄命令が出され、外国からの輸入品にも厳しく取り締まりがされるようになった。    電子ゲームはもちろんのこと、インターネットにも娯楽に関するコンテンツへのアクセス制限がかかっており、なんでもNEAC指導後に生まれた子供たちの中には『遊戯』という存在自体を知らないという者もいるそうだ  ―――なんとかわいそうに。  そんなNEACのたゆまぬ努力と政策の甲斐あってか、近年の日本国内のGDP(国内総生産)は著しく上昇し、今や公の場においては娯楽物は悪であるという風潮が一般的であり、選挙の時期になると「日本における娯楽文化の完全撤廃」をスローガンとして掲げる政治家が駅前で演説する光景というのもそう珍しくない。  ―――そうなのだが  なぜか先生はこういった破棄命令の出された昔のダイス式ボードゲームをいくつも所有しており、それらが私達【娯楽部】の活動資本として機能しているのである。 「……あちゃ~「1」か……【サメに襲われて70万円が治療費に】、って、いやいや、どういう状況よこれ?」 「フフフ―――『マス目のイベントの理由を考えても意味はない。考えるべきなのは次に何の目を出せば相手に勝てるか』、先生がよくおっしゃっていることじゃないですか?」 「お? 言うようになったじゃない? 【すごろくプリンセス】花山桐江嬢?」 「そんな称号は絶対に嫌ですね……」  コロコロコロ…… 「……「6」です! やった! 来ましたッ! 300万円の臨時収入です!」 「エェ⁉ マジで⁉ インチキじゃんそんなん!」 「フッフッフッ……どうやら、今日こそは先生に勝つる日が来てしまったようですね!」  得意げな私の顔を見て、先生は静かにボソッと―――しかし私にしっかり聞こえるように呟いた。
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