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第五話「サイコキネシスの可能性」
梅雨明けの徐々に強くなってきた日差しと物音で御波光留は目を覚ました。
物音で目を覚ますなんて珍しい。
この一ヶ月でいい加減に見慣れてきた天井から視線を滑らせると、台所でお湯を沸かす松田遼汰の姿が見えた。
「お、おはよう。ヒカも飲む?」
先に起きた優越感を湛えた笑顔には納得いかない。彼の方が先に起きるのは珍しいことなのだ。
昨日から残っていたお皿を洗ったことも含めて満足げにしているけれど、それもまた納得がいかない。
確かに、光留も昨晩そのお皿を放置して寝たからイーブンだけど、そこに盛られていた麻婆豆腐とエビチリを作ったのは光留なのだから、片づけるのは彼であるべきだろう。
大体、映画を付けた途端にお皿どころか光留も放っておいてとっとと寝落ちしてしまったのは彼なのだ。ソファに転がる彼にタオルケットを被せて、お化粧も落としてシャワーも浴びてから、さらに皿洗いなんてする元気が残っているはずがない。
「わたし、コーヒー苦手なんだけど」
「そだった。お湯沸いたし、お茶入れよっか」
「うん」
自分のドリップコーヒーと、光留にはティーパックを浮かべたマグカップを。ワンルームの真ん中に置いたローテーブルに並べて、遼汰は部屋の真ん中にあるソファに座った。
光留もベッドを這い出して彼の横に座ると、半人分くらいスペースを置いているので、ソファがしっかり沈む。このままもうひと眠り出来そうかも。
このまま睡魔に身を任せても良かったけれど、鼻孔を突き抜けるコーヒーの香りが目覚めさせてくれる。この香ばしさは嫌いじゃない。口に入れた時の苦味はどうしても好きになれないけど。
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