プロローグ

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プロローグ

 御波光留は美少女だった。  テーブルに置いた鏡に映る顔は満足のいく出来だ。女の子らしい丸みと柔らかさがある顔と綺麗な二重瞼に縁取られた瞳は、明るくて親しみやすそうな雰囲気だ。元々色素の薄い髪を肩上のボブカットに切り揃えて、赤みのある茶色で染めているのでその印象はなおさら強まる。丁寧にヘアアイロンを当てていくと、緩やかなウェーブがかかって更に垢抜けて見えてくる。  今朝の悪夢で歪んだ顔からは随分と持ち直すことができたと思う。  いつもの白い部屋にいた。どこまでも白い壁。日光を遮る白いカーテン。唯一の光源にになるのは蛍光灯の白い光。わずかな汚れもない白いシーツ。足跡のない白い床。垢の一欠片さえも洗い流された白いガウン。そして一切の不純物を許さないほど透明な空間。  それまでの全てを削ぎ落して作り上げたような白い部屋。  もう何度も見た光景でも、決して見慣れることはない悪夢だ。  激しい動悸とともに迎える目覚めは最悪だ。今にも破れそうな心臓と肺を落ち着かせて起き上がると、鏡に映るのはうんざりするような顔。寝汗で乱れた髪、寝不足で出来たクマ、頭痛で歪んだ顔を見た時は本当にうんざりしたし、そしてそのうんざりした自分の顔にさらにうんざりした。うんざりのスパイラルだ。  それでも不幸中の幸いは、そんな悪夢のせいで朝はいつもより早く目が覚めたことだろう。  朝の準備時間はたっぷりある。  ヘアアイロンを回転させながら、最後のひと房を巻き終えるともう一度鏡を覗いて仕上がりを見る。  白い肌の化粧っ気は薄く、チークとリップで足された赤みもごく自然に溶け込んでいる。それでもちゃんと下地を作って明度を上げているしパウダーでテカりを押さえて、コンシーラーはクマを隠すだけではなくて、細かいシミもカバーもしている。あんまりないけど。
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