1話 召喚獣になったらしい

4/12

442人が本棚に入れています
本棚に追加
/262ページ
もう寒くはない、暖かいほどに心地がいい それだけで心が落ち着くのに 鼻に付く様々な匂いは春先に香る草花に似ていて 他にも幾つも匂いがする 『 ん…… 』 こんなにも色んな匂いが掻き分けられて、色んな匂いが気になるものなのか、 自分の嗅覚に不思議に思い重い瞼をうっすらと開けば目の前には緑が見える 『 草……? 』 案外、視力はよくぼやけてなくハッキリと見える 長く寝て起きた後のように頭は少しだけぼんやりとしているが 暗闇やら真っ白な場所ではなく、此所が草の上だと分かる 海の中だったはずだが、あの青年に出逢ってから場所が変わったなんて言えば納得する 納得しなきゃ、此所が死後の世界にでも思えるだろう いや、もしかしたらそうじゃないかって思うほどに心地がいい 『 草の匂い…土の匂い…風の匂い 』 冷たい冬ではなく春先の気温 身体に感じる風に身を委ね 様々に香る匂いに肺一杯に深呼吸していれば ふっと有ることを思い出した 『 そう言えば俺ってどんな姿なんだろうか……起き上がれるか?よしっ……! 』 きっと人ではないことは予測できた だからこそあの青年に言われた事を思い出し 自分がどんな生き物なのか知るべく、起きやがろうとすれば上手く身体は起きない 『 ぐっ、これ……人の時みたいな使い方じゃないな…… 』 四足歩行なのは身体を動かして分かった 前足で身体を支えても、二足歩行にすることが出来ず後ろ足が思考に付いてこない 脳と身体の動きに上手く出来ず、左右に転がったり尻だけ浮かして振ったりしていれば 視線の端に揺れる物に気付く 『 なんだこれ……はっ、尻尾か!? 』 地面に顎をつけたまま顔を後ろに向け 尻を見れば、人の姿では無かったものが尻を振るのと合わせて揺れ動く 触りたくなる衝動にかられて尻尾へと顔を向ける 『 このっ、上手く掴めないな。掴む……噛むのか? 』 手は動かない、なら噛むのかと口の動きを確認してから尻尾へと狙いを定める 『 うー、ガウッ!! 』 うわっ、スゲー変な声がどっかから出たなって位の声が耳に届き、少し驚いた事で身体は横へと転がり腹は空へと向けられた 『 ……この身体、丸っこい?メタボ? 』 黒々としたGが死んだ時のように腹も手足も空の方を向いたことで、自分の体型に気付く 腹辺りが自棄に重いし手足は短い 明らかに丸い寸胴体型に青ざめる 『 身体だけはジムに通って引き締めてたのに、丸っこい体型?ウソだろ……そんなの嘘って言ってくれ!! 』 こんな身体は嫌だと、背中を草に擦り付けるように動かしジタバタとしていれば、子供の笑い声は響いた 「 あはははっ!!ノワール、なにしてるの 」 『 ノワール? 』 誰?いや、きっと俺を呼んでることは理解できた あの青年が真名以外の名前で呼ばれると言ってたから、俺はどうやらノワールと言う名前で呼ばれてるのだろ 声のする方に目線を向ければ腹を抱え、片手は目元にやり涙を溜めてまで笑っていた少年の姿がある 五歳前後の黒髪の少年は、ケラケラと笑った後に此方へとやって来て 俺の身体を軽々と両手で持ち上げた 『( えっ…… )』 「 ノワール、おまえってほんと。かわいいなっ 」 可愛いげない容姿だと思ってたはずなんだが可愛い? それに大人の俺を持ち上げるとはこの少年、どれだけ力持ちなんだ それにでかく見える……いや、これは俺が小さくなってるだけなのか? 『 ガウッ( 意味が分からない )』 少年へと告げた言葉は、獣の様な鳴き声で掻き消された 人間じゃ無くなってるし 小さな獣扱いをされてる 丸々したボディーに短い手足 尻尾は戌とかにそれに見えたのだが 他の身体はまだ分からない じっと少年を見詰めていれば、彼は俺を抱っこしたまま歩き始めた 「 さて、かえらなきゃ、おかあさんにおこられるよ 」 『 グウッ!( 離せ、自分で歩ける! )』 「 わっ、ノワール? 」 どんなに人の姿では無くなったにしろ、 子供に抱っこされて運ばれるなんて嫌だからこそ 暴れて腕から地面へと落ちた 結構な高さだったが、この丸々としたボディーのおかげか 其とも元々痛みに強い身体なのかは知らないが、ころっと横に転がって終わった 「 じぶんであるくの?ついてこられる? 」 『 ガウッ!( 余裕だ、御前の手は借りなくとも歩ける )』 さっきは尻尾を追い掛けたせいで起き上がれなくなったんだ、と思い 不器用に手足を動かし地面を歩く あの青年が大地を蹴り、速く走れるなんて言ってたがそんなの嘘じゃないか 『 ハァー、ハァー……( 今、何歩歩いた? )』 「 ノワール、おれの一歩が五歩ぐらいだね 」 『 クゥン……( 抱っこを許す )』 「 うん!だっこする!! 」 言葉は通じなくとも、立ち止まった事で察してくれたのか 少年は俺の身体を抱っこして歩き出す しっかりと尻と背中を支えられて抱かれるために、少年の肩から背景を見ていた 大きな木がある丘だった為に、少年は坂道を下っていく こんなにも辺りが開けた場所が日本にもあるんだな 「 ただいまー! 」 「「 おかえり 」」 『( うん、日本じゃないな )』 日本だと言うことは、ものの数分で 彼の帰った民家と町の風景を見て諦めが付いた 此所は、日本でもなくどっかの外国でもないらしい 異世界ってやつなのか?
/262ページ

最初のコメントを投稿しよう!

442人が本棚に入れています
本棚に追加