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……考えてみれば、この人ははじめて会った時からずっと優しい。
ミーちゃんにはもちろん、患者でもないメイとハクにも優しかった。
野良犬であるリキのために池内くんまで呼び出して対応してくれた。
そして、褒められるような態度をとってないあたしに対しても、どこまでも優しかった。
……すこし頑固で、ちょっとだけ強引で、少々しつこいのかなと思う一面もあるけど、決してあたしが心底嫌なことの無理強いはしてこない。
……こんな風に考えてしまうのは、やはり体が弱っているからなのかな…?
人間なんて嫌い。
あたしを含めて大嫌い。
……でも、さっき頭を撫でてくれて、今、あたしの涙を甲斐甲斐しく拭いてくれてるこの手を、うれしいと感じているあたしがいる。
この手は嫌いな人間の手なのに、心地いいと思ってしまっている。
……この手はとても優しい。
人は嫌いだけど、汐崎さんは嫌じゃない。
そう思えば思うほど、涙がはらはらと止まらない。
そっと汐崎さんがあたしの額に手のひらをあてて、次いで首筋に手のひらをあてた。
ヒヤリとする手の感触に「んっ…、」と小さく反応してしまう。
「あっ、驚かせてしまいましたね。すみません。熱はあるのかなと思いまして…。」
どうやら手のひらで熱の有無を調べていた様子。
「……手が…冷たくて、少し驚いただけです。大丈夫…。」
そう口にし、ドクドクとせわしない鼓動に戸惑いつつ、あたしは両目を閉じた。
「熱は高いようですね。身体、すごく熱いですよ。」
「……そう…ですか…。」
すごい寒気だもん。
高熱だよと言われても驚かない。
そりゃあ、ドクドクと動悸もするはず。
異常にドキドキとうるさい鼓動は熱のせいと納得させて、あたしはゆっくりと息を整えようとする。
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