きちんと治療はうけますよ

15/35
前へ
/292ページ
次へ
「私、医者だもん。苦しんでる患者をどうにかしたいと思うのは当然でしょ?メリットなんて考えてないわ。」 あっけらかんと言った桜さんの言葉を、あたしは素直に受け取れなかった。 「……何の見返りもないのに、あたしにいろいろとしてくれたんですか?」 信じられない…… そんな人、本当にいるの? そんなあたしの思いは、モロ顔に出ていたようで、くすりと悲しげな笑みを桜さんは浮かべた。 「……強いて言うなら、元気になって『ありがとう』って言ってもらえたら、それで十分。私はそれ以上何も望まないわ。」 そして、ミネラルウォーターで喉を潤し、桜さんは続けて口を開いた。 「まっ、大金持ちのお嬢様だから、金持ちの裏の世界をよく知ってるんでしょ?お金のこととか、ドロドロな人間関係とか。だからメリットとか、そういう言葉が出てきちゃうんだろうし、仕方ないとは思うけど……。本当に私は純粋にあなたを助けたかっただけ。」 今度はあたしを労るような笑顔を向けてくれる。 その笑顔に……態度に、嘘は感じられない。 ……こんな風に接せられるのは初めてで…… どう返せばいいかわからない。 どうしたものかと戸惑っていると、ニヤリといたずらっ子っぽい表情となる桜さん。 自分に素直な人なのかな? さっきからくるくる表情が変わる。 「私と竜也の関係とか気にならないの?」 ……気にならないの?と聞かれましても…… 「あの…、さっきから出てくる『竜也』さんって、誰なのでしょうか?」 汐崎さんのこと? それとも池内くん? 汐崎さんのフルネームは聞いたことがある気がするが…… 覚えておく気なんてさらさらなかったし、右から左へうまく流してしまったような…… 『竜也』がわからないから、単純に質問したのに、桜さんはかなり驚いた顔になってしまった。 なぜ?
/292ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1295人が本棚に入れています
本棚に追加