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「私、医者だもん。苦しんでる患者をどうにかしたいと思うのは当然でしょ?メリットなんて考えてないわ。」
あっけらかんと言った桜さんの言葉を、あたしは素直に受け取れなかった。
「……何の見返りもないのに、あたしにいろいろとしてくれたんですか?」
信じられない……
そんな人、本当にいるの?
そんなあたしの思いは、モロ顔に出ていたようで、くすりと悲しげな笑みを桜さんは浮かべた。
「……強いて言うなら、元気になって『ありがとう』って言ってもらえたら、それで十分。私はそれ以上何も望まないわ。」
そして、ミネラルウォーターで喉を潤し、桜さんは続けて口を開いた。
「まっ、大金持ちのお嬢様だから、金持ちの裏の世界をよく知ってるんでしょ?お金のこととか、ドロドロな人間関係とか。だからメリットとか、そういう言葉が出てきちゃうんだろうし、仕方ないとは思うけど……。本当に私は純粋にあなたを助けたかっただけ。」
今度はあたしを労るような笑顔を向けてくれる。
その笑顔に……態度に、嘘は感じられない。
……こんな風に接せられるのは初めてで……
どう返せばいいかわからない。
どうしたものかと戸惑っていると、ニヤリといたずらっ子っぽい表情となる桜さん。
自分に素直な人なのかな?
さっきからくるくる表情が変わる。
「私と竜也の関係とか気にならないの?」
……気にならないの?と聞かれましても……
「あの…、さっきから出てくる『竜也』さんって、誰なのでしょうか?」
汐崎さんのこと?
それとも池内くん?
汐崎さんのフルネームは聞いたことがある気がするが……
覚えておく気なんてさらさらなかったし、右から左へうまく流してしまったような……
『竜也』がわからないから、単純に質問したのに、桜さんはかなり驚いた顔になってしまった。
なぜ?
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