馬鹿みたいな僕ら

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 岬がこうして誰かに振られるのを見るたびに、安心する自分と、どうして振られてしまうのだろう、と不思議に思う自分が頭の中で交錯する。きっと、相手の男は彼女の良さが分かっていないのだ。昔から知っている仲だから、自分だけがその良さに気付ける。自分だけが、分かっている。  頬を汗が伝ってきた。暑くて苦しい。息が吸いづらい。 「元気出せよ、そのうちまた、誰かを好きになるだろ」  それはきっと、俺ではない。 「……岬?」  俯いたまま顔を上げず、何も言わない姿に声をかけた。いつもなら、すぐに憎まれ口を叩くのにそれがない。暑さで具合が悪くなってしまったのだろうか。熱中症にでもなったら大変だ。  慌てて肩に触れ、強く引いた。顔が上がり、こちらを見る目が大きく揺れる。太陽の光を受けてきらきらと光り、雫が落ちていく。動揺して固まった。声が出てこず、ただ見つめたまま茫然とするだけだ。 「あは……、泣いちゃった」  視線が逸らされ、その拍子にまた雫が落ちた。屋上のアスファルトに黒い染みが出来る。 「さっさと帰ろう。ここ暑くてムリ」  立ち上がり、なんでもないように言う姿に心臓が締め付けられた。彼女の心の痛みに対してではない。そこまで本気だったのか、という絶望感に似た感情が、自分の中で重く膨れ上がっている。何度振られても立ち直る姿を見て、心のどこかで「これは本気の恋愛ではない」と高を括っていたのだ。  屋上の扉に向かって歩き出す背中に、黙ってついていく。じりじりと照り付ける太陽が不快で、顔を背けると汗が滴り落ちた。アスファルトを染める雫が先ほどの涙と重なって見え、息苦しさが増した。
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