馬鹿みたいな僕ら

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 一時間ほど集中し、限界がきてそのまま倒れた。大の字になって弱音を吐く私に、瞬はいつものように「がんばれ」と腑抜けた声で言う。ふと、ベッドの下に物が乱雑に詰め込まれているのが見えた。悪戯心が芽生え、寝転がったまま反転して移動する。 「よし、エロ本を探そう」 「はぁ? なに言って……、うわ、やめろ」  ベッドの下に手を入れ、まさぐる私を見て言う。その声音があまり焦っているように聞こえなくて、内心で舌打ちした。期待している物はないかもな、そう思いながらも掴んだものを適当に引っ張った。途端に瞬が声を上げる。 「……っ待て、岬」 「なにこれ?」  出てきたのは、大きな封筒だった。大学名が書かれているそれを見て、思考が固まる。瞬の志望校ではない。滑り止めに受けるような学校でもない。訳が分からずに瞬を見ると、気まずそうに視線を逸らされる。 「ねぇ、なに……?」  無言が不安感を生み、ただ言葉を繋げる。 「瞬、……東京、行くの?」  わずかに口元が動くのを見た。途端に心の中に生まれた不安が増大していった。 「な、なんで? こっちで良くない? なんでわざわざ……、ていうか、え、いつ決めたの?」  混乱する頭で、感情のままに言葉を吐き出していく。なんで、どうして、と渦巻く思いが、次第に絶望へと変わっていく。瞬が東京に行ってしまったら、もう一緒にはいられなくなる。あと半年で、お別れがきてしまう。 「ごめん」 「なんで、謝るの」 「言ってなかったから」 「……なんで」 「もう、決めたんだ」  なんで、と繰り返しそうになり、飲み込んだ。自分が求めている回答など、彼の口から出てくることはないのだ。自分で行きたい道を選んで、挑戦すると決めたのに、どうして私が止めることなど出来るのだろう。  馬鹿みたいだ。同じ大学に行って、これからもずっと一緒にいられるだなんて、そう思っていたのは私だけだった。それを望んでいるのは、私だけだった。 「……帰る」 「え、どうして急に」 「べつに、ただやる気無くなっちゃっただけだよ。休憩して、うちでやるから」  逃げるようにして部屋を出た。自分の家でもないのに見慣れた廊下を歩き、玄関を出て、振り向かずに外を歩く。太陽の熱が素肌を差し、不快感を脱ぎ払うように小走りになる。  もしかしたらもう、あの部屋に行くことはないのかもしれない。そう思ったら無償に悲しくて、情けなくなった。
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