馬鹿みたいな僕ら

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◇◇◇ 「ここで待っててね、絶対だよ」  いつものように俺以外の誰かを好きになって、いつものように告白をしにいく。何度も見た後ろ姿を見送りながら、なんとなく嫌な予感がしていた。  放課後、誰もいない教室で外を眺める。こんな暑い中、外に呼び出されたら男の方も溜まったもんじゃないだろうな、と視線の先を見つめた。校庭脇の木陰で待つ生徒の元へ、先ほど別れたばかりの岬が走ってやってくる。  会話は聞こえず、表情も見えないが、何をしているのかは辛うじて分かる程度の距離だ。まるで自分と岬との距離のようだ、と思い、自嘲する。  志望校を変えたことを言わなかったのは、その理由が説明できないからだ。べつに、やりたいことがあるわけではない。東京に憧れているわけでもない。ただ、もう、潮時だと思った。岬から距離を置ける正当な理由が欲しかったのだ。  黙っていたことに機嫌を損ねたのか、バレてしまったあの日以来、岬はうちに来ていない。それでも気まずくならずいつも通りに接してくれるのは、彼女の優しさなのかもしれない。  二人が会話をしている姿をぼんやりと見つめる。こうして直に見るのは、これが初めてだ。今までは「告白した。振られた」とテンプレートのように事後報告があるだけで、実際にその様子を見たことはなかった。  岬は、どんなふうに自分の気持ちを伝えるんだろう。彼女に真っすぐに思いをぶつけられて、断る男の気が知れない。  視線の先で、男が一歩、踏み出すのを見た。二人の距離が近くなり、その手が岬の肩に触れる。ざわりと心臓の辺りに不快感が走った。あ、これは、駄目だ。そう思った瞬間に身を翻し、鞄を持って教室を出た。  半ば走るような速さで廊下を歩き、階段を降り、下駄箱で靴を履き替える。  昇降口が、校門に近くて良かった。二人のいる場所を通らずに、このまま帰ることが出来る。視界に入れるのも怖くて、俯いたまま足早に歩いた。校門を潜ったところで、後ろから岬の声が追いかけてきた。 「瞬、まって!」  振り向くと、こちらに走ってくる姿があった。見つかっては仕方がない。祝う心の余裕などなく、その場を躊躇なく走り出した。はぁ? と、間抜けな声が聞こえてくる。 「待って、ってば!」  校門を出て道を曲がり、全力で走る。足で負けるはずがない。このまま家まで走って逃げよう。これ以上は頑張れない。心がおかしくなってしまいそうだ。
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