馬鹿みたいな僕ら

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 突然、背中に衝撃が走った。鈍い痛みが襲い、うっ、と思わず声が出る。驚いて振り返れば、足もとにペットボトルが転がっていた。開封されていないそれには当然、満杯に飲料が入っている。 「こんなもん投げるなよ……っ」 「に、逃げるからぁ」  息を切らしながら追いついた岬が、今にも泣き出しそうな顔をしていて動揺する。なんでそんな顔をするんだ。恋人が出来たというのに。泣きたいのはこっちだ。 「教室にいてって、言ったじゃん」 「振られてないんだから、いらないだろ」 「何、言ってんの?」 「なぐさめる役はもういらないだろ」  走りすぎたせいか、覚束ない足取りで岬が近づいてくる。大量の汗を流しているのを見て、自分も汗だくなことに気付いた。はぁっと、大きく息を吐く。 「何言ってんのか分かんない……っ、私は、待っててって、言ったんだよ」 「だから、もう無理なんだって!」  思わず声を上げてしまい、岬が驚いたように息を呑んだ。暑さで頭が正常に働かない。冷静にならなくては、と心の中では思っているのに、口から出るのは醜い感情そのものだ。 「ごめん、岬、ごめん。好きなんだ、お前のこと、ずっと前から。俺、……ちゃんと祝ってやれない」  ごめん、と項垂れれば、汗が滴り落ちてくる。頭がくらくらする。呼吸が苦しい。もう、どうしたらいいのか分からない。  鼻を啜る音が聞こえた。ふらつく頭を上げれば、目の前で岬が大号泣していた。涙がぼろぼろと流れ、ついでに汗もだらだらと垂れ、両手で必死に拭いながら嗚咽を漏らしている。こんな盛大に泣いている姿を久しぶりに見た。子供の頃以来だ。 「うっ、うぅ……」 「な、なんで泣いてんだ……?」 「ばかぁ」 「えっと、ごめん」 「分かってないのに謝るな」  細い腕が伸び、拳がぶつけられる。大した力ではないのに、胸が痛んだ。 「振られて、ないから。告白、してないし」 「え、なん、え?」 「振られたの、最初の一回だけだもん。わたしだって、瞬のことずっと好きだったんだから」  泣きながら、さらりと言ったその言葉に耳を疑った。呆けていると、再び拳で叩かれる。 「馬鹿みたい……っ」  おそるおそる手を伸ばし、頬に触れた。汗と涙で濡れた肌を拭い、落ちてくる涙をまた拭う。しゃくり上げ、泣き続けながら岬の手が俺の手に触れた。制止するわけでもなく、ただ添えられるだけの指先から、熱が伝わってくる。 「あ、暑い……」  犬のように赤い舌を見せ、低い声で言う姿に思わず笑みが零れてしまった。
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