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馬鹿みたいな僕ら
「あーっ、ちゅーしちゃう! あああぁ……」
放課後の屋上に、岬の声がこだました。そんな大声を出したら本人たちに気付かれてしまうのではないかと思うが、遠く真下にいる二人の顔は至近距離のまま微動だにしない。
「あーあ、しちゃった」
胸元辺りにある柵の上へ体重を乗せ、下を覗き込んだまま不貞腐れる。
「やってらんないよ、ほんと」
「まだキスしたかどうか分かんないだろ」
「え、なに言ってんの? あの状態でキス以外になにがあんの。顔くっつけてなにしてるのさ、逆に怖いわ」
そう言われてしまうと、もう反論はできない。そもそも反論しようと思ったわけではなく、なぐさめようと思って適当に言った言葉だ。
「これで五回目だ……。もう一生立ち直れない気がする」
「それ聞くのも五回目だ」
ずるずると崩れ落ちるように座り込んでしまった岬を見て、少し慌てて顔を覗き込んだ。俺の心配をよそに、水を欲した犬のように舌をチラつかせながら呼吸をしていた。当然だ、こんな真夏の空の下で屋上にいる生徒なんて、俺たち二人しかいない。
「水飲め」
「もってないよ」
「……これ」
鞄からペットボトルを取り出し、膝を抱えたまま不貞腐れる岬に渡す。途端に嬉しそうな声を出し、受け取るや否やキャップを開けて飲みだした。鞄を持ってきていてよかった。
「ぬっる」
「おい」
「うそうそ。さすが瞬くん、頼れるわー、好きだわー」
ふざけて言った、そのたった一言で心臓が大きく飛び跳ねる。馬鹿みたいだ。今目の前で失恋に打ちひしがれている奴が、自分のことを本気で好きだと思っているわけがないのに。
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