21人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「冷えるようになってきたねえ」
暖簾を片手でかき分けながら、伊沢守は店から出てきて呟いた。傍の赤い提灯に照らされて、右半分だけ赤く染まっている。
彼の表情は若々しくエネルギーに溢れているが、整えられた頭髪は白髪と黒髪が混ざり、銀色に光って見えた。
足元は黒のサイドゴアブーツ。
グレンチェック柄でブラウンのスリーピーススーツ、薄いブルーのシャツと濃いブルーのタイを組み合わせている。高い身長も相まって、華やかで目を引く出で立ちだ。
右手でジャケットの内ポケットを探ると、タバコとライターを取り出した。
黒い箱を弾いてタバコを取り出すと口に咥え、真鍮のオイルライターで火を着けた。
ふぅ、と煙を吐き出しながら、街明かりで霞む夜空を見上げると、
「明日もいい天気でしょうかねぇ」
誰に言うでもなく言葉に出していた。
最初のコメントを投稿しよう!