ラムネ

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   *  初めての夏祭りで兄にラムネを買ってもらった。  見慣れない形の瓶は少し重くて、薄く青みを帯びたガラスがとてもキレイで、飲み物としてというよりはその姿形に私はとても惹かれた。手の中から伝わってくる冷たさが気持ちよくて、気づくとぎゅっと両手に力を入れていた。 「開ける?」  ラムネに手を塞がれた私に兄が優しく聞いてくれた。  私は屈んで視線を合わせてくれた兄の顔から自分の手の中へと視線を動かす。硬い口にはめ込まれた青いキャップ。真ん中の丸いビー玉がどこからか光を受けてキラキラと輝いている。 「ううん、いい」  私は首を横に振る。  兄は一瞬不思議そうな表情をしたが、すぐに「そっか。じゃあおうちに帰ったら開けよう」と言って笑った。温かくて大きな手で頭を撫でられ、私は宝物になったラムネをさっきよりも強く握った。  空は夜の色をしていて、道路に沿って並んだ屋台からは美味しそうな匂いがしている。すれ違う人たちがみんな楽しそうに笑っていて、昼間の蒸し暑さを乗り越えた空気は涼しくて気持ちがいい。初めて袖を通した浴衣の上を泳ぐ金魚も、歩くたびに音がする下駄も、何もかもがいつもとは違ってワクワクした。 「花火、観るの?」  通りすがりの人たちの会話が耳に入り、私は隣を歩く兄を見上げて聞いた。  兄は少し困ったように笑ってから「花火はまた今度。もうおうちに帰らないと」と言った。 「そっか……」  水滴で濡れた手の中を見つめたまま私は顔を俯ける。ガラス越しにサンダルを履いた兄の大きな足が見える。 「花火は観せてあげられないけど……」  途切れた言葉に顔を上げた私の目の前、兄が後ろを向いてゆっくりとしゃがんだ。少し汗ばんで色の変わった黒いTシャツが私の視界の真ん中で止まる。  ぼーっと眺めている私に、兄が肩越しに振り返る。 「おうちまで乗っていいよ」 「!」  私はラムネの瓶を両手に抱えたまま兄の広い背中に駆け寄った。    *
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