悩みの夏は小さな謎とともに

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 田園を貫くように走る電車に揺られながら、その蓮井悠人は単語帳を片手に叔父の家があるS県の西端にある町を目指していた。住んでいる関西の町から約四時間半以上。明らかに飛行機で行くのが早いのだが、毎年のように新幹線と特急、そしてこの田園を走る電車に乗ることにしていた。  急ぐわけでもないし、電車の中で駅弁を食べたり本を読んだりするのが好きなのだ。それに悠人は今年高校二年生。そろそろ本気で受験勉強をしなければと、思い出したように電車の中でも英単語帳を広げていた。だが、頭にはあまり入ってこない。 「今年は和臣さん、いるかなあ。最近は東京に行ったきりらしいからなあ」  その理由は旅行中でウキウキしているからというものではなく、従兄が帰省しているかどうかが気になっているせいだ。進路に悩む悠人は、この夏休みというタイミングでどうにか従兄で大学院生の新井和臣にあれこれと相談したかった。しかし、直前に叔母の新井沙希に確認したところ、今年は帰って来るかどうか解らないとの答えしかもらえなかった。 「何でも実験の途中だとかで、悠人君がいる間に戻って来るか微妙なんだって。大学院生って意外と忙しいのねえ」
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