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追想の森
夏の始め、僕は君と出会った。君は一人でこの山のこの森に来ていた。そして僕も一人だった。
森の中で出会って、そこから二人に。
僕は一瞬で君に恋をしてしまった。このまま二人で今日一日を楽しみたいと思った。君は僕の思いに答えてくれた。そして、
「今度また、ほかの所も行きたいね」
僕の提案にも素直に応じてくれた。僕はとても嬉しかった。もう君のことで胸がいっぱいになった。
それから幾度か、気軽に行ける山や森の中を二人で散策した。
僕はずっと楽しかった。でも、そう思っていたのは僕だけだった。君の心は夏の終わりが近づくと供に冷たく寂しくなっていった。
僕は悲しかった。
君は、
「今度で終わりにしましょう」
そう言った。僕はつらいのを堪えて
「じゃあ、最後はまた始めて会った森へ行こう」と言い、君も了解した。
君は待ち合わせに、僕が「君に一番似合うよ」と言った服で来てくれたね。
あの森を初めてのような気分で歩けた。木々の香り、清流の爽快な流れ。小高い丘から見えるわずかな遠い景色も美しかった。
「僕は、君とこれでお別れなんて、信じられないよ」
僕がぽつりと言うと、
「私、本当を言うと、あなたを別れた彼を忘れたいための人と思っていたの。でもダメ。それじゃ忘れられないの。それにあなたに悪いわ」
「誰かの代わりだったってワケか……」
「ごめんなさい」
君は涙を流していた。僕も自分がみじめだとか言うんじゃ無く、君の涙に心を打たれて泣いたよ。
僕はそれで、心に強く思ったんだ。これからも君とずっと一緒にいたいって。だから……。
あれから僕は、毎週のように休みの日にはこの森に来ているんだ。近隣の施設や町の人とも少しずつ顔見知りになって来たよ。
この夏。この森は、僕が決して忘れることの無い、想い出の場所になった。
君を埋めた、この森。ずっと通い続けるつもりさ。
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