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開戦
時刻は午前8時05分。
朝から妻は用事で出掛けていった。
隣で眠る3歳の陽斗を横目に携帯をいじっていたのだが安寧の一時も束の間、突如陽斗が泣き叫んだ。
開戦はいつも突然だ。
「ボタンを押したい~!」
今まで私は生きてきて第一声が「ボタンを押したい」だったことは一度もない。
良くも朝一からそんな大きな声が出るもんだと感心するほど部屋にこだまする息子の絶叫。
「僕が押すの!」
寝ぼけているのだろう。
何のボタンかもわからないし、そもそもボタンを押す夢とはどんな夢なのだろう。
息子の奇襲攻撃に私は思わず防戦一方にならざるを得ない。
とりあえず「背中トントン」作戦を遂行するがあっけなく破れ去った。
陽斗の攻撃はさらに苛烈になった。
手と足をバタつかせ、何者も寄せ付けない。
この攻撃は非常に危険である。
以前この状態で無理やり抱っこしようとして、かかとが鼻に入り鼻血が止まらなくなったことがある。
私は慎重に近づき、一気に持ち上げる。
ジタバタと暴れる陽斗のパンチを顔面に何度か受けながら、なんとかリビングへたどり着きソファに座らせる。
右手で陽斗を抱き寄せながら左手で流れるようにリモコンを操作し、アニメをつける。
今のテレビはYouTubeや動画配信サイトが入っていてとても便利だ。
気がつくと陽斗はアニメに夢中になっていた。
こうして初戦は幕を閉じた。
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