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……夢じゃなかった。
浜辺には、相変わらず黒い紡錘形が突き刺さっているし、砂浜には――。
「いっ、一夏ちゃんっ?!」
そんなことないと頭では分かっているのに、まだ惚れている女性、花火デートをする筈だった一夏ちゃんが、胸のザックリ開いたセクシーな赤いドレスを着て座っていた。
「タスケテクレテ、アリガトウゴザイマス」
形の良いピンクの唇が動く。けれども、声は機械のように無機質だ。やはり、この人は、彼女ではないのだ。
「色々聞きたいけど、まずは……これ、飲める? 酒だけど」
「タイナイデ、ムガイカ、デキマス」
あ、そうなんだ。便利な仕組みだ。
納得して口を開けた、ストロングレモンチューハイを渡す。
「アリガトウ」
両手で受け取ると、偽一夏ちゃんは、コクコクと細い喉を鳴らして一気に飲み干した。
彼女から少し離れて腰を下ろす。落ち着いて眺めると、この一夏ちゃんの姿は、最後に店内で俺を接客してくれた時の服装だ。
「あんた……さっきの銀色のヤツだろ。なんで、彼女の姿してるんだよ」
「ゴメンナサイ。ワタシハ、スガタヲモタナイ。アナタノキオクニ、ツヨクキザマレテイル、ヒトノスガタヲ、カリマシタ」
ああ……そういうこと。強く刻まれてるのか、まだ。
「分かった。さっきの銀色が、本来の姿なんだな」
「イエ、アレハ、イドウポッド、ニ、ノルトキノケイタイデス」
「ふぅん。で、あんたは、どこの星の人?」
ビニール袋に残った缶を2本出して、1本を彼女に、もう1本は自分で飲んだ。余りに膨大で不可思議な情報量に晒されると、人の思考は処理を放棄する。アルコールも回っているし、もう、そんな感じ。
「ソレハ……キミツ、ナノデ……」
「キミツ? ああ、トップシークレットって訳」
コクンと頷く、その仕草は一夏ちゃんみたいに可愛らしい。
「それじゃ、あんたは、ここで何してたの?」
まるで職質してる気分に、苦笑いが浮かぶ。
「……ボセンニ、カエル、トチュウデシタ」
母船があるのか。『インデペンデンスデイ』みたいに、ある日人類は侵略されるんだろうか。
「ソンナコト、シマセンッ!」
「ぶっ!」
突然、頭の中を読まれたことに驚いて、チューハイを吹いてしまった。
「アッ、ゴ、ゴメンナサイ」
「……や、いいけど……」
ホントは良くないんだけど。あんた異星人だし。そういう地球人の常識なんて、通用しないんでしょ。
「ワタシタチハ、チョウサシテイマス。コノホシノ、カンキョウ、ブンカ、セイブツ……イロイロデス」
調査、ねぇ。
まだ訝しみながら、俺はチューハイをゴクリと流した。
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