太陽に照らされた場所

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

太陽に照らされた場所

まただ。 付き合おうと言ってきたのは、お前の方じゃないか。 いつも決まって連絡頻度が減っていく。 そして音信不通。 未読の期間が3日経過したら、「バイバイ彼氏みたいだった人」と言って、永久にラインの連絡先を消す。 それが私のルールになったのはいつからだろう。 悲しい? そんな気持ちになったことはない。 私にとっては、もう何度目の出来事か分からないくらい同じことの繰り返しなだけだし、ピリオドの連絡を寄越さない誠実さのない人と、この先関係を築くなんて到底無理な話。 そんなことを言うと「マリ、ドライだね。寂しくなったりしないの?」と聞かれる。 これも何百回目かの質問だが、何百回目かの答えを返す。 「寂しいって、どんな気持ちのこと?」 そう言うと、決まって、友達は触れちゃいけないもののように哀れんだ目で私を見た。 「マリは施設育ちだから」と心の中の声が聞こえてくるようだった。 ★★★ 物心が着く前に両親を交通事故で亡くし施設で育った私は、手のかかる子供だった、らしい。 そんなもの大人が勝手に貼り付けたレッテルでしょうに。 私は施設での生活が嫌いだった。 周りの同世代の子たちは、みんな暗いし、そうじゃない子は、そうじゃない子同士で群れて、私につっかかってくる。 必然的に私は施設内で孤立した。 孤立していることに特段何の感情も感じてはいなかったが、大人たちは、そんな私を見て、周りの子たちではなく、私に問題があるとみなした。 中学生になったある日、耐えきれずに施設を飛び出した。 飛び出した先で、同世代くらいの不良少女とケンカした。 ボロボロになった体を引きずりながらようやく見つけた公園のベンチに座る。 行く当てもない、このあとどうしようかとぼーっと考えていたら、いつの間にか眠っていた。 空腹を感じ、目を覚ますと、私の体に毛布がかけられていることに気づく。 さらに隣に50代後半くらいの怖そうなおじさんが本を読みながら座っていた。 「起きたか。腹減ってないか?」 私に向けられた言葉だとすぐに気づくことができずにいると、 「腹減ってないかと聞いてるんだ!」ともう一度ドスの効いた低い声で聞かれた。 「ひぃ。すみません。減ってます!」と大声で答えた。 「そうか。よし、着いて来い。」 抵抗でもしようものなら殺されるのではないかと思い、言われた通りびくびくしながらおじさんの後ろを着いて行く。 すると、「井上」という表札のあるこぢんまりとした一軒家におじさんは入っていった。 おじさんがガラガラと扉を開けて、「おーい、帰ったぞー。」と言うと、奥からかわいらしいおばさんが出てきた。 「はいはい、お帰りなさい。大分遅かったのね。って、あなた!なんてこと!!こんなに可愛らしいお嬢さん、どこから連れてきたの!!」 と可愛らしい声でおじさんを叱りつけている。 「あらあら~。お名前は?お腹すいてるのね?ほら、あがって。まずはお風呂ね。その前に傷の状態を見せてちょうだい。」 と、矢継ぎ早にまくしたてる。 そんな様子に興味がないと言わんばかりに、おじさんは部屋に入っていった。 なんだか対照的な二人だなと思った。 おばさんから、どこから来たの?と聞かれ、一言「ひまわり園」と答えた。 「そう。とにかく、今日は泊まっていきなさい。」と言われ、コクリと頷いた。 翌日、おじさんとおばさんに施設に連れて行かれた。 あぁ、またここでの生活に戻るのか、と絶望的に気持ちが沈んだ。 応接室で、園長と井上夫婦が話している。 私は、オープンスペースでいつものように1人でぼけっとテレビを見始めた。 どのくらいたった頃だろうか。 突然「あほんだらぁ!!」という低くドスの効いた声が園内に響き渡った。 その声にビクっとして応接室の方を見ると、おじさんが1人で出てきて、私の方へツカツカと歩いてきた。 今度こそ殺される、と思ったが、おじさんは、またあの低い声で「マリ、帰るぞ。」と一言だけ言った。 訳もわからず、「はい。」と言っておじさんの後ろに着いて行った。 駐車場に止めていた車の中に、おじさんと私。 沈黙が続く。 ん?そういえば、さっき、おじさん、私のこと、マリって呼んでくれた? なんか、・・・嬉しい。 すごく変な感覚。この沈黙の車内の空気感は、どこかあったかい感じがした。 10分ほどたったころ、おばさんが大荷物を抱えて車に戻ってきた。 私の洋服や生活用品だった。 「マリちゃんの意見も聞かずにごめんなさいね。」 私は訳もわからず、ただおばさんの顔を見ていると、 「今日から私たちの娘になってくれないかしら。」 「・・・えっ。」 完全に思考停止。 「・・・えっ??」 「ダメかしら?」 「そ、そんなこと・・・」 と言っておじさんの方を見てもおじさんは何も言わない。 「よし!決まりね!」 その言葉を合図に、車が出発した。 その日、私は井上マリになった。 ★★★ あの日から、奇妙な3人暮らしが始まったが、施設にいた時のように家から飛び出したい衝動はなくなった。 相変わらず対照的な2人だが、2人がケンカしているところは見たことがない。 というよりも、たぶん、おばさんは怒っているのだろうけど、可愛らしい風貌と可愛らしい声のせいで怒っているように見えないといった方が正しいのかもしれない。 「あなた!ご飯のときに新聞読むのやめてください!せっかく3人で食卓囲んでいるのに!少しは会話に参加してもいいんじゃないの?!!」 そういうと、おじさんは、「あぁ。」と聞いているのか聞いていないのか分からない返事をするのがお決まりだった。 「もう、何度言ってもご飯時に新聞読むのやめてくれないのよね!マリちゃんからも言ってちょうだい!」 行儀が悪いといって怒っているわけではない。私たちと楽しい会話をしろ!といって怒っているおばさん。 そのやり取りが、なんだか急におかしくなって、私は声を出して笑ってしまった。 すると、おばさんと、新聞を読んでいたはずのおじさんが、同じタイミングで私の方を見た。 「マリちゃんが・・・」 と言いかけて、みるみるおばさんの目に涙が溜まり始めた。 「マリちゃんが、笑ったわ。」 そう言って、おじさんの方を見ると、先ほどよりも高めの声で「あぁ。」と言い微笑んでいた。 「そんなに、泣かなくても。」 何だか居心地の悪さを感じて、でも、なんだかくすぐったさを感じて、うつむいた。 おばさんは、この家の太陽みたいな人だな、と思った。 ★★★ 井上家に来てからは、学校へもちゃんと行くようになった。 施設と何ら大差はないくらい学校も嫌いだ。 でも、おじさんとおばさんに心配はかけたくないから、行くようにしている。 それなのに、やってしまった。 私が同級生と派手にケンカをしてしまい、相手の子に怪我をさせてしまった。 先生に呼び出され、一方的に叱責された。 当然、怪我をさせてしまったのは私が悪いから仕方ない。 それでも、家に連絡を入れるのだけはやめて欲しいと懇願したが、叶わなかった。 夕方になって、おじさんとおばさんが学校に来てくれた。 「おじさん、おばさん、ごめんなさい。」 おじさんが、いつもの怖い顔で無言のまま私の頭を撫でた。 おばさんが、「マリちゃん、大丈夫よ。職員室に行ってくるわね。」と言って、2人は職員室の中へ入っていった。 職員室の中には、おじさんとおばさんのほか、私が怪我をさせてしまった男子の両親も来ていた。 しばらくすると、職員室の中から、突然「あほんだらぁ!!」という低くドスの効いた声が響いてきた。 私はまたビクっとして、職員室の方を見る。 あの時と同じだ。 おじさんが怒っている。 すると、前と同じように、おじさんが1人、職員室から出てきて、廊下で待っていた私を見るなり、「マリ、帰るぞ。」と言った。 車に乗り込むと、おじさんはエンジンを入れ、車を走らせた。 「おばさんは?」と聞くと、 「あいつは、遅くなるから大丈夫だ。」 何が大丈夫なのか分からなかったが、これ以上聞ける雰囲気でもなかった。 明日、私は学校に行っても大丈夫だろうかという心配だけが残っていた。 家に着いてしばらくすると、玄関が開く音がした。 私は自分の部屋から飛び出し、玄関に駆け寄った。 「おばさん」と恐る恐る声をかけた。 すると、 「マリちゃん、大丈夫よ。明日もしっかり学校へ行きなさいね。」 と笑顔だった。 ダイニングテーブルにおばさんが座ると、私も一緒に座った。 「おばさん、ごめんなさい。」 謝ると、 「なんでマリちゃんが謝るの。確かに怪我をさせてしまったことはよくないことね。でも、マリちゃんは間違ったことはしていないでしょ?」 「え、でも、職員室でおじさんも怒鳴っていたし。おばさんもこんなに遅くまで・・・」 すると、おばさんは、今日の職員室での出来事を話してくれた。 職員室に入ると、既に相手方の親御さんと私が怪我をさせたその息子が座っていた。 おじさんとおばさんが入るなり、施設育ちで品がない、乱暴、どういう躾をしているんだと一方的に責めたててきたそうだ。 うちの子は大怪我をさせられて、サッカー部の試合にも出られなくなってしまった。その責任をどうとってくれるんだと。 おばさんは、怪我をさせてしまって申し訳ないと謝り続けていたそうだが、何か理由があるはずだから、息子さんにも理由を聞いてくれないかと言ったそうだ。 すると、うちの子は何もしていない、急にあの子が殴ってきたと一点張り。 そもそも、施設育ちの子だから、理由なんかなしにこんな乱暴なことをするんだと決めつけてきたと。 一方的に罵り続ける相手方の両親に対して、今まで黙っていたおじさんが突然「あほんだらぁ」と言い放ったそうだ。 そして小さくドスの効いた声で「施設の子施設の子ってなぁ。マリはうちの子なんだよ。理由もなしに人様に手を挙げるような子じゃないことは分かっているんだ。大方お宅のお子さんが、下級生をいじめてたんじゃないか?自分の子どもの素行すら把握できずに、人んちの子どもを侮辱するのはいい加減にしてもらえませんかね。」と言ったそうだ。 すると、その場にいた息子は、おじさんの迫力に耐えきれず、泣きながら、その通りだと認めたらしい。自分が下級生に対してカツアゲをしたことをあっさり白状したようだ。 「でも、あの人、見た目があんなじゃない?だから、本物のヤクザみたいに思われても困るから、そのあとの対処は私って大体決まっているのよ。」 と言って、はははと笑った。 「でも、どうして、理由があるって分かったの?」 「んー。根拠はないけれど、勘みたいなものじゃないかしら?もちろん私もよ。あの人が、マリちゃんを連れてきた日も、マリちゃん、本当は、子猫を助けようとしてたんでしょ?」 施設を飛び出したあの日、行く当てもなく町をうろついていると、ガラの悪い女の子が、子猫に石を投げて怪我をさせていた。 私は、「やめなよ。」と言ったが、彼女は石を投げるのをやめなかった。 「やめろって言ってんだろうが。」そう言うと、「あぁん?」とメンチを切ってきたそいつと、殴り合いになった。 しばらくすると、警察を呼ばれそうになり、そいつは逃げるように去って行った。気づいたら、子猫の姿もなくなっていた。 守るべきものがなくなった途端、急に体中に痛みを感じた。 休む場所を探してたどり着いたのがあの公園だった。 おじさんは、その現場のすぐ近くの喫茶店で一部始終を見ていたようだ。 ケンカが激しくなってきたため、いよいよマズいと思い外に出て、「警察を呼ぶぞ」と言ったのもおじさんだった、らしい。 そして、よろよろと歩き出した私を心配し私の後を着いてきていた、らしい。 私が公園にたどり着き、ウトウトし始めているのを見ると、毛布を取りに自宅に戻り、案の定寝てしまっていた私に毛布をかけてくれたようだった。 「あの日もね、あの人いきなり家に帰ってきたかと思うと、何にも言わないで毛布だけ持ってまた外に出ていってね。それから数時間してマリちゃんを連れて帰ってきた時には本当にびっくりしたのよ。でもね、私、マリちゃんのこと見てて気づいたの。マリちゃんは、あの人に似ているって。」 そう言ってふふっと笑った。 「何があったかとか、全然話さないじゃない?そのくせ、見た目に迫力があるから、勘違いされやすい。本当はとっても心の優しい子なのに。そんな子が理由もなしに、人を殴ったりなんてしないわよ。」 施設の応接室でも、きっと園長は、私のことをよく思っていない話を延々したのだと思う。それでおじさんは、今日と同じように、園長に怒ってくれたのだ。 「そうそう、ひまわり園に行ったときもね、あの人、園長に「あほんだらぁ!」って怒鳴ったあとに、「あんた、教育者のくせして、今までマリの何を見てきたんだ?あぁ?今日からマリはうちの子だ、今後同じような口叩いたらただじゃおかねぇからな。」って。だから、そのあとは、私の仕事。」 そういって、ふふっと笑った。 そうか。だから、私は、無言のおじさんと一緒でも苦ではない、むしろ、安心した気持ちになれるんだ。 そのうえ、そんな私(と、おじさん)のことを理解し、さらに大きな愛情で包んでくれる太陽みたいなおばさんが、より一層の居心地の良さを提供してくれているんだ。 私は、やっぱり、おじさんとおばさんの子だ。 井上家での生活が、こんなに心穏やかに送れているのは、おじさんとおばさんの底なしの無償の愛情が基盤になっている。 これが、家族というものなのかもしれない。 まるで、私がここにいることが当然とでも言うように、私に居場所を与えてくれた。 そのとき、お父さん、お母さんと呼びたいと思った。 でも、恥ずかしさで言えない自分を呪った。 夜、家の中が寝静まったころ、おじさんとおばさんの部屋にそっと入り、とても小さな声で「お父さん、お母さん、今日は本当にありがとうございました。」と言って頭を下げた。 ★★★ 高校を卒業して、就職した私は、井上家から離れ、一人暮らしをすることになった。と言っても、井上家からそう遠くない距離で、いつでも帰れる距離だった。 そうはいっても、引っ越しの日、おばさんは寂しい寂しいと言って、なかなか泣きやまなかった。 それに困っていると、おじさんが、おばさんを制し、「マリ、今のうちだ。行け。」と言って、送り出してくれた。 「ありがとう。すぐ帰って来れる距離だから!」 「マリちゃーん!!マリちゃーん!!」 永遠の別れじゃあるまいし、と思いながらもここまで泣いてくれるおばさんの姿に、少し心が痛んだ。 新しい生活が始まって、仕事に慣れるのは大変だったが、1年もすると、大分成長し、仕事が面白くなってきた。 高校のときから付き合っていた聡とは、だんだん疎遠になっていき、あれだけ頻繁に連絡を取り合っていたのに、最近は未読になることが増えた。 久々に仕事が早く終わった日、聡の通う大学へ行ってみることにした。 すると、タイミングが良かったのか悪かったのか、大学の正門から聡が知らない女と歩いてくるのが見えた。聡は、私に気づいて、明らかに顔をしかめた。 でも、なんでだろう。 ショックはなかった。 自分でも不思議なくらい、急激に気持ちが冷めて行った。 家に帰ると、聡から何通もラインが来ていたが、全く開く気持ちにならなかった。 その日から、不思議なことに、聡のことを思い出す時間は1ミリたりともなくなった。 別に仕事が忙しかったというわけではない。完全に興味を失っていたということ以外に理由が見つからなかった。 そして、3日が経過していたことに気づき、聡からのラインを開いてみると、こちらから何も聞いていないのに、言い訳がずらり。 何も感じなかった。 3年も付き合ってきたというのに、何の愛着も持てなかったことが証明されたかのように、何も感じなかった。 何の返事もすることなく、あっさりと聡の連絡先を削除した。 その時から、人の興味は3日で分かるという何となくの私のルールが出来上がった。 その後、何人かの男と付き合ってきたが、だいたいこのルールに則って、未読3日で完全削除としている。 そんな話をすると、女子はみんな口をそろえて、「別れたあとって寂しくないの?」と言う。 またそれか。と思いながら、「寂しいってどんな感情?」と聞き返す。 私には、本当に分からないのだ。 ★★★ 一人暮らしを始めても、おばさんからは、毎日のように電話がかかってくる。 私も頻繁におじさんおばさんの家に帰っているのだが、それでも、私のことが心配なのか、連絡頻度が減ることがない。 「マリちゃん、元気?久しぶりね!」 「おばさん、昨日も電話したばっかりだよ。」 「あ、そうだったわね」と言って笑った。 「そうそう。来週の土曜日マリちゃん空いてる?お父さんと一緒にマリちゃんの部屋に行こうって話してるの。」 「うん、空いてるよ。じゃあ待ってるね。」 もはや、私が一人暮らししている意味も分からないほどに、家を行き来している。 それが私の日常だった。 おじさんとおばさん来たら何作ろうかな。パスタはおじさん、あんまり好きじゃないしなぁなどと考えていると、来週の土曜日が待ち遠しく思えた。 ★★★ 突然電話が鳴った。 「井上マリさんのお電話ですか?こちら警察です。落ち着いて聞いてください。マリさんのお父様とお母様が、交通事故に巻き込まれました。今、救急措置をとり、○×病院へ搬送中です。」 ・・・交通事故? え、ちょっと待って。 「本当に父と母なんですか?何かの間違いじゃ?」 「井上孝治さん、井上美代子さん、いずれも65才のご夫婦です。」 「井上さん?井上さん?大丈夫ですか?」 無言のまま、電話を切った。 しばらく、何も考えられなかった。 はっと思い直し、○×病院へタクシーで向かった。 きっと大丈夫。ケガをしてるだけ。 だって、今日はうちで3人でご飯を食べる約束をしているんだもの。 また来週に変更したらいいだけで。 きっと「あら、マリちゃん、心配かけてごめんねぇ。」って太陽みたいな笑顔で待ってくれてるに違いない。 そんな思いは、簡単にへし折られた。 病院に着くと、もう、おじさんとおばさんは、息を引き取ったあとだった。 「おじさん・・おばさん・・・」 白い布が2人の顔にかけられていた。 「ウソ・・・でしょ?」 「お、お父さん!お母さん!!」 私、まだちゃんと2人のこと、お父さんお母さんって呼べてないよ。 「ねぇ。何とか・・言ってよ・・・」 霊安室に、警察の人が現れた。 「井上マリさんですね。お父様のお車の中から、これが。」 ぐしゃぐしゃに潰れた大きめの箱。 中を開けると、パンツスーツと手紙が入っていた。 何この気持ち。 何この痛み。 何この涙。 身体中が痛い。 子猫を苛めていたやつに殴られたときよりも、 同級生の男子とケンカしたときよりも、 あんなの比じゃないくらい、痛い。 この身体の痛みは何なの。 身体の半分まるごと引き裂かれたような鈍く、鋭利な痛み。 どこにも傷なんてないのに。 痛い。痛い。痛い。 ねぇ、お父さん、お母さん。 ねぇ!!お父さん、お母さん!! 痛いよ。 ねぇ、お父さん、お母さん、 私を置いていかないで。 一人ぼっちってこんなに身体が痛むの。 ねぇ、お父さん、お母さん、 今日、私、誕生日だよ。 こんなプレゼントなんかいらないから。 お父さん、お母さん。 痛いよ。寂しいよ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!