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「マジ万字企画 【キャラクター】編 書評③」
【③】『純愛中毒』 著:亜衣藍 様
https://estar.jp/novels/25637149
まず、今作「後書き」にて随分気落ちされていたので、応援メッセージを送らせて頂きます。
これを「ちゃんと読んで」「面白くない」と思う人は、読書量か人生経験が浅い方です。数字は結果かもしれませんが「面白いかどうか」には、全く関係ありません。消去なんて勿体ないので、もし消去するのであれば、もっと面白くした推敲作品と交換ですね!
面白い要素と、もっと面白くなる要素が多々含まれています!
「ちゃんと読ませる工夫」は、必要になりますが……。
実は、次回募集テーマは「ミステリィ」にしようかと考えていたので、先行する形で評していきます。勿論、キャラクター重視で。
ご応募の際にコメントで「主人公と助手を見て」との事でしたが、これにはミステリィ特有の難問が隠されています。
ほぼ確実に、被害者、もしくは犯人のキャラが勝ってしまいます。(勝てないのであれば、それはそれで問題……)
本作でもそうで、「マキ」という純真無垢な青年が悪い男に騙され(BL作品です)、それでも尚、騙された男に「愛」を求めるという内容になっています。
今回は、何度も同じ事を言います。
一番大きな苦難に立ち向かうキャラクターが、一番キャラ立ちします!
ちなみに、「主人公」の定義は、カッコいい人でも探偵でも超能力者でもなく、「苦難を乗り越える人」です。
イエス・キリストが物語史上最大の「主人公」だと、これまた小池一夫さんが言っている理由です。
本作で圧倒的に立っているのが「被害者のマキ」でした。物語も全て彼女(彼?)中心に回りますし、彼女の純真を書くことこそが物語の主題ですので、この点に関しては完全に成功しています。
中でも取り上げたいシーンが、被害者が男に惚れる場面。
普通に考えて、この男はダメなヤツとして配置されていて、こんなヤツに惚れるなんてどうかしてるんじゃない?(作中でも度々書かれています)という状況ですが、マキの惚れた理由が手に取るように分かりますし、「あぁー、これは惚れるわ」とボヤいてしまいました。
彼女の抱える三重のコンプレックスが、カタルシス的に開放されるからです。
彼女にとって彼は、周囲がどう言おうとも救世主であり、「純愛」たらしめる存在になったと、きっちり表現されていました。
このシーンの出来が素晴らしく、後々、巻末まで、何があろうとも男を信じ続ける姿に説得力を持たせています。
この点だけでも、「消去」の必要は全くありません。これが駄目だという方がいれば「坊やなのね」と一蹴して良いかと。
話を少し変えますが、「ミステリィ」、特に「探偵物、推理小説」は、あらゆるジャンルの中でも随一の完成度と多様性を持つ作品形態です。現実的にも、出版される半数以上の作品がこれに偏ります。
最大の理由が、「主役」と「基本構造」が分かりやすいからです。
探偵役ほど書きやすい「主役」はいません。物語の運びも絶対的なテンプレートが存在しています。(ドイルとかアガサとかクイーンとか乱歩とか清張とかetc)
故に、崩しやすい。
絶対的テンプレートを、ミスリードに使用する作家が後を絶ちません。
しかし、ここには大問題も抱えています。
「主人公」が探偵にならない点、です。
(以下、私的な分別です)
「主役」と「主人公」は役割が異なります。
「主役」の目的は「客引き」です。
「主人公」の目的は「感情移入」です。
ガンダムは「主役」ですが、アムロ・レイが「主人公」です。
※これは、かなーり個人的な分別です。出典などありません。
通常は「主役」と「主人公」は兼任されています。観客の視点がブレるので、余程の策が無い限り、この方法は使わない方が賢明です。
ところが、「絶対的テンプレート」を持っている「探偵・推理」は、この分離を自然と行ってしまいます。
「刑事コロンボ」や、これを模した「古畑任三郎」で顕著なのですが、主人公の持つ資質「葛藤、悩み、苦悩」は、被害者や犯人が持っている場合がほぼ全てです。
でも「主役」は探偵です。上記の有名ドラマのタイトルでも一目瞭然です。
全ジャンルを見渡しても、この稀有な構造を持っているのは「探偵・推理・ミステリィ」くらいのものです。(後、時代劇も)
普通に書いてしまうと、絶対に「被害者、犯人」の方がキャラ立ちしてしまうのです。
故に、「主役(探偵)」を立たせる為の数々のテクニックが存在し、キャラクター物としても研究に暇がありません。
しかも、かなり細かいテクニックばかりです。「構造」という大きなテクニックで、主人公に勝てないのは分かっていますから、細かなテクニックの積み上げでこれを成立させます。(女性人気が高いのも、これが理由だと思っています)
また、読者も細かいです。「伏線を見破る!」が読書目的だったりもするので、細部にまで目を光らせています。
では、指摘も含め、具体的に見て行きます。
探偵役が「どのような探偵か?」が抜けています。
警察出身の元警視、では不足です。「BL回」で指摘させて頂きましたが、「警視」なのか「警部」なのか「巡査」なのか「一課長」なのかで、全く話が変わってきます。今作では「元警視」ですが、この歳で「元」警視ならば、キャリアである可能性が高くなります。
キャリアである不都合は何か?
キャリアとは、大雑把に言ってしまえば「官僚の役人」であり、現場の「熟練した技」を得る機会は一般職の刑事より遥かに少ないです。これがネックになるので、「コロンボ」にしろ「古畑任三郎」にしろ、あの年齢で「警部」「警部補」なのです。
何がネックになるのか?
熟練の「落とし技」が出せない! の一点です。
本作では、ハッテン場の「店長」が色々と親切に「マキ」について話してくれますが、これも指摘ポイントで、こうした隠匿性の高い居酒屋、バー、高級店などの店主は、絶対に「見ず知らずの客」に他者の情報を漏らしません。警察が手帳を翳しても、絶対に話しません。これをやってしまうと、店の信用が無くなりますので「口の軽い店」として、誰も来なくなって店は潰れてしまいます。
そんな口の堅い経営者から話を聞きだすには、相応の現場テクニックが必要になります。
ここが見せたいのです!
このテクニックを見せたい!
どういうテクニックで口を割らせるか? という行動において、「私、こういう探偵です」と観客や読者へ名刺を配るのです。
だから、「キャリア」だと動きづらいので、古畑任三郎は警部補なのです。熟練した現場の人間じゃないのに、そんな技術を持っていたら御都合主義なのです。
(キャリアなのに現場に出ていた人間、としたい場合、その描写を念入りに入れましょう。一エピソード使ってもいいです)
ここで、何か捻りだしてみてください。どうやって、「マキちゃん」の情報を、口の堅い店主から聞き出すのかで、探偵の凄さを見せつけましょう。
ここが最重要ポイントです。
むしろ、ここだけです。ここが捻りだせれば、後は自動的に「名探偵」が誕生して、「探偵の方向性」も定まるので、マキちゃんという「主人公」と対等な「主役」に成長します。
後、後半の探偵の手口も変更した方がよいです。守秘義務違反、恐喝罪、電波法違反etc……、登場人物で「唯一」犯罪を犯してしまっています。ダークヒーロー物であれば、その説明をやはり「探偵登場時」に入れ込むと読者にも理解が得られます。
いや、この話はマキちゃんの話で……、
と言うのは分かりますが、「ミステリィ」は樹海です。魂と体が別々に動く特殊エリアです。どちらも成立させる為に、プロ、アマ問わず、ミステリィ作家は難解なパズルゲームに没頭するのです。
それが面白いですよね!
パズルが組み合わさるその一瞬が、たまらなく快感なはずです。でなければ、チャラ男を日焼けさせませんものね!
純文学やらに比べれば明確に目標が定まるので、他ジャンルよりも「やりやすい相手」だとは思います。(故に競争率も高いのですが……)
『まとめ』
次回の募集で入れるはずだった前説を書いてしまった為、長くなってしまいました。
基本、ミステリィはパズルゲームです。誰も見た事が無いパズルを作る為のコンテンツです。
だからこそ「誰も見たことが無い」を作る方法は簡単で、作家性を入れ込むだけです。
作家性なんて人によって全員違います。
「マキちゃん」の純真は素晴らしかったです。直球で刺さりました。チャラ男もすっごく良かったです。
これを書ける大きな魂さえあれば、後はパズルをするだけなのです。もっともっと面白くできる可能性を秘めている作品です。
こうした作品と出会いたくて、私はここで「本気」を募集しています。
推敲……というより、「調査」だけでも何倍も面白くなりますよ。
(④へ)
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