「マジ万字企画 【23年4月26日書評】

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「マジ万字企画 【23年4月26日書評】

ご無沙汰しております 2、3,4月が忙しすぎて、万字をやる暇が皆無でした。 こちら、頂いたのが8月とかだったので、時間が経って申し訳ないです。 【躍れ! 祭とバトンガール】著:中島みつる https://estar.jp/novels/25998687 本作、いくつか考えるポイントがありますので、後でまた詳細は述べます。 その前に、「この物語を短文で著すなら」を、私の解釈で書きます。「いや、そうじゃねえよ!」って感じで、違っていたら教えてください。 主人公の伊集院祭は、同じバトントワリング後藤流花に心惹かれている。 かつ、祭は守護霊が見える特異体質も持っている。 守護霊により、流花の寿命が残り僅かだと知る祭は流花を気に掛けるのだが、運命通りに流花は死の淵に立ってしまう。 守護霊と主人公と流花の物語。 まず、良いところから。 本作は昨年の「ポプラキミノベル小説大賞」用の執筆との事です。ポプラ社は私も大好きだった「ズッコケ三人組」を筆頭にした小学生くらいの子向けのレーベルで、この賞もそのくらいの年齢層をターゲットにしているのかな? と思いました。 このターゲットというのが凄く大切で、誰に向けた話なのかで内容や演出(文体)が変貌してきてしまいますね。 本作は、しっかり小中学生ターゲットになっていると分かったので良かったです。 只、どちらかというと、「親が子供の目線に合わせて作った作品」に見えたというのも事実としてありました。 この手の若年層向けではあるあるですが、「子供の目線」で書いているのか、「親の目線」で書いているのかでテイストが大きく変わります。 数だけでいえば「親の目線」の作品が圧倒的に多いです。まぁ、書いているのは親ですものね……。 具体的には「こういう子供であって欲しい」という願いが入ってしまっている事が多くて、これがキャラクター造形を阻害する可能性が極めて高いです。 キャラクターが良い子になりやすい、って事です。 本作も、どの子も凄く良い子です。とっても良い子です。 ここに共感するのは子供ではなく「親」だったりするので、そちらをターゲットに振り切るのも良いかと思いました。 因みに、これはどちらが良いとか悪いではありません。只、ターゲットによってブラッシュアップの方向性が変わります。 純粋に子供ターゲットのジュブナイルは博打なので、数を打ってナンボの世界だと思っていますし、根源的な感性に着目する必要が出てきます。後、儲からないです(笑) また「良い子」についてどこかで触れましたが、物語としては作り辛い性質があります。 主人公のビフォー、アフターが書き辛いからですね。主人公の変化は物語の醍醐味の一つなので、それを放棄する形になります。 もしくは「良い子」の変化は「悪い子」なので、アンダーグラウンドへ堕ちていく主人公……みたいな物ならありです。 「良い子」→「良い子」の場合、大きな欠点などを備えておくと「欠点を克服する」というストーリーラインが作れるのでやりやすかったりします。 今回は親目線として読んでいます。 次に内容についてですが、色々とギミックが詰められていて楽しかったです。 守護霊というご先祖様や悪魔やらが人間に憑りついている、という設定も面白かったです。この霊の使い方でシナリオのバリエーションが増えてくるので、設定として良かったです。 音楽やバトンという部活的な要素も良いと思います。基本、この年齢で小説を読むのは女の子なので、そこに向けた作りになっていて良かったと思います。 要素が多くて場面転換も早いので、飽きずに読めました。 ストーリーも一本調子ではなく、守護霊側のサブプロットがあったり、主人公や、ヒロイン側にもストーリー背景が流れていたので、厚みのあるストーリーラインになっていたと思います。 とてもバリエーションに富んだ内容になっているのですが、その分、構成面で成形する必要があるかと感じました。 具体的には、 ・メインで見せたいものは何か? これが、より明確になっても良いかと。 今回、タイトルだけ見れば「バトンをする子供達」の話に見えますが、本筋はそこじゃなかったりします。 守護霊が見えてしまい、好きな女の子が死に瀕していると知ってしまう主人公。 ↑これがメインストーリーではないでしょうか? 音楽をしたり霊が見えたり恋模様があったりとバラエティには富んでいますが、どれも方向性が異なっているので、ぐっとそれらが集約される本筋みたいなものがあれば、より分かりやすかったと思います。 本筋に合わせて登場人物の数、登場シーンの数、台詞の数などは管理されるべきなので、一本柱となるものをどーんと構えて欲しいなぁと思いました。 因みに、この万字ではいつも言っている「死と性」ですが、これが絡む以上、メインストーリーから外すのはかなり困難なので、「音楽がメイン」とか「バトンがメイン」であれば、「死」の演出は検討した方が良いです。普通の人間は、バトンよりも死の方が気になって仕様がないです。 全部を全部は書けないので、選択と集中があると読みやすくなるかなーっと思いました。 後、ここからはコンテスト用の指摘です。 「時系列崩し」は、基本NGです。 本作だと、冒頭が未来(エピローグ)から始まって、なぜこうなったのか? を本文のストーリーで追っていく内容になっています。 冒頭の文章は、よほど印象的なエピソードでもなければ、読者は覚えてくれないです。 「よほど印象的なエピソード」が書ければ、それでもOK。プロでもそうそう滅多に作れないですが、自身があるならOK。 これが失敗すると高確率で落選します。 それよりも、軸となるものは何か? を早々に読者へ伝える必要があるので、主人公とヒロインを早々に確定させた上で、ストーリーラインの「ヒロインが死ぬかも」を提示するのがベタですが効果的です。 本作、イベント数もあって、設定も多いのでとても面白かったです。内容的には王道なので、それに沿った形で成形するとパワーがでる作品だと思いました。
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