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「マジ万字企画 【キャラクター】編 書評⑤」
【⑤】『すいかの音のきらめき』 著:樫村 雨 様
https://estar.jp/novels/25692171
企画事に、平均7作品ほど読ませて頂いており、全てにこうした書評を述べさせて頂いております。
そしてほぼ必ず一作品は「どうすればいいんだ!」と、頭を悩ませる作品があります。これは作品の良し悪しではなく、私の知識不足によるものです。懊悩する作品傾向で、それが丸裸にされております。
今回は、樫村様作品、めちゃくちゃ悩みました。読み終えた瞬間からヒヨってしまい、先に「保険」コメントを打つという、引け腰から始まったのです……。
少女小説!
所詮、私が読んだ少女小説など「マリア様がみてる」と「トワイライト(の初めの方)」くらいのもので(氷室冴子先生……申し訳ありません。読んでいません)、少女漫画だって「ピーチガール」くらいから読んでいない……いや、そこそこ読んだかもしれませんが、でも「ちはやふる」は未読な分けで、この程度の読書量で書けるかどうか不安でいっぱいですが、なんとか書いてみます。(大いに保険をかけています)
分かってねーな、糞中年男が! との誹謗中傷、お待ちしております。
では。
初めに、少女漫画、少女小説について、巨匠、宮崎駿大先生のお言葉で……、いや、他者の名前を使うのは本気ではないですね。私も思っている本音です。
「綺麗なものの中で、綺麗な事を語る」作品、それが少女小説です。
※あくまで、狂乱の男と中年の男の意見です。
男性作家にとって最も難しく、未知の領域といえる作風であり、本作が「感覚派」の作品であったら、どうにもならずお手上げでした。
が、綿密に仕込まれたテクニックのおかげで、作品構造が浮き彫りにされており、少女小説特有の悩みも見えてきます。
まずは作品内容。
幼少期より天才ヴァイオリニストであった千華は、北海道の有名音大に入学する。入学式にて「愛の挨拶(エルガー)」名演を披露するも、観客は見向きもせず、「あいつが噂の?」と陰口ばかりを囁き合います。冷笑ばかりで、誰も「演奏」を聴いてくれない! その折に聴こえた「オペラ『リナルド』より『私を泣かせてください(ヘンデル)』」。この優しい音色に、演奏者である「ひつじくん」にたちまちに恋をしてしまう。その後も千華は「天才」として、村八分の苦難を受ける……。
現在ここまで連載中で、ここまでを読ませて頂きました。
ひと昔前では小説や漫画で「音楽物」は絶対にNGでした。「音」が聴こえないからです。音楽とは当然ですが「音」が命ですので、これが無いと話にならないと言われていましたが、そんなのは昭和時代の話であり、今ではYouTubeで検索すれば幾らでも聴けます。聴きながら読めます。
この時代の進歩とは無関係に、漫画でもその他書籍でもヒット作があり、むしろトレンドとなりつつあるのが、「音楽物」と言えます。
でもまぁ、音が聞こえないのは重大な欠点ですので、難易度が上がってしまうのは当然の足枷でしょう。この足枷を突破する為に必要なものは、「技量」と「キャラクター」。
キャラ立ての資質は「技量」or「感性」の二択で、感性タイプ(蒼井氏、りふる氏など)の作品とは真逆の、「技量派」タイプの作家様でした。
音楽についての考察が細部で露見しており、学識なのか人生談なのかはさておき、コストが掛かった文章でしっかりと音楽を説明しています。
入学式にて「愛の挨拶」を主人公が弾いた時に、私は「え? ベタすぎない?」と思ったのですが、これもきっちり伏線として使われていて、ミスリードにベタな音楽を選び、その後超絶技巧の曲へと変わり、これを主人公は弾ききるのですが、「結局、観客は何も変わらなかった」という問題提起と共に、主人公の技量も同時に説明する良演出です。
演出プランの一つで「二度同じ場面を見せ、その違いで人物の心情を浮彫にする」技法です。(違わない事もまた違いです)
一番印象に残ったのが冒頭で、プロローグ的に祖父からの手紙が読まれますが、この書き方が素晴らしい。
前回記載しました「台詞で主人公の情報以外は書かなくて良い」の正に実践例で、手紙という祖父の言葉を通して、この主人公が「どのような人間で、人種で、言葉で、才能を持っているのか」を、しっかり読者へ理解させています。
ほんの一ページでこれを説明でき、箇条書きのような冷たさを持たせない為に、祖父の手紙(言葉)で語らせたのでしょう。綿密に組まれた構成美がそこにはあり、読者の信頼獲得には十分な冒頭でした。
この様な演出的な仕掛けが至る場面で組み込まれ、主人公の「天才」ならではの苦悩も、周囲の友人達の行動により認識できるよう設定されています。
あまり喋ってしまうとネタバレが過ぎるのでこの程度にしますが、どのシーンからも研鑽された合理性が見て取れました。
一見すれば「読みやすいなぁ」という印象がありますが、これを実現するには、白鳥の如く水面下でバタ足を続けるたゆまない努力が必須なのだと痛感します。
いかにして「音楽」という小説界での無理難題を突破してやろうか? その熱い魂が見えてくるようです!
さて、ここからです。
様々な演出プランですが、一つのポイントへと収束させています。
「如何に、柔らかく魅せるか?」
これに尽きると思います。
シーンは数多あるのですが、それぞれに落ち度があります。指摘ではありません。おそらく故意にされています。
最も目に付いたのが、「天才の苦難」。
いやいや、それ大テーマでしょ?
そう、大テーマです。最早「前提」です。
この少女、幼少期の段階で既に有名音学院を卒業し、雑誌でも取り上げられるほどの天才です。
こんな天才に、周囲の大人は、なぜメンタルトレーニングをさせなかったのでしょうか?
現実にも「五嶋みどり」という六歳にしてパガニーニのカプリースを披露する化物がいますが、彼女等の周囲の大人は、容易に想定される民衆からの嫉視の為のメンタルトレーニングを、施さなかったのでしょうか? そんなはずがありません。
むしろそれを指導するのが先人の同じ道を歩んだ大人達で、師匠の存在意義です。
ここで、一度ストップ。
もう一度言います。
これは指摘ではありません。
意図的に、これが「抜かれている」と思いました。深読みかもしれまんが、これほど合理的な演出プランを練れる作者が、ここを見落とすとは考え辛かったです。
「綺麗な世界で、綺麗事を叫ぶ」のが、少女小説の持つ絶対的特権です。
上記の問題を解消し、現実味を帯びるキャラクター像にしてしまうと、そもそもこの話は書けないわけで、むしろ書いてしまうと「絶対的特権」を手放す事になります。
もっと言えば、そんな現実味でガチガチになったキャラクターなどいくらでも存在するわけで、それとは違う方向性を検討されていると、読み取れました。
あくまで世界の上澄みの中に留める話、を書ききる!
そうした作者のチャレンジがあるのではないか?
こう考えると、色々な場面で「抜けている」ものは、全て現実味のあるものばかりです。
ガチガチの屁理屈オジサンに向けた話ではないのですよ! 少女小説って!
合っているかどうかはさておき、面食らったのは事実です。
『まとめ』
文章も構成も洗練されていて、とても読みやすいです。物語に論理性があるので、メディアミックスもしやすいかと思います。
こうした世界観では難しいかとは思いますが、「作者の声」がどこかしらに転がって見えると、より引き込まれる作品に仕上がっていくのではないかと思います。
現在、連載が丁度折り返しですので、完結したらまた読みに行きます。
さて……、罵倒されるかしら……。
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