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「マジ万字企画 【 謎 】編 書評①」
まずは、今回、募集企画にて投稿して頂きました皆様へ、多大なる感謝を申し上げます。
「BL編」「純文学編」「キャラクター編」に続き、第四回目となります。開催の度に新しい作品に触れ、その度私も随分と思考を巡らせ、彩ある充実したお勉強をさせて頂いております。
今回は「謎」というテーマで募集させて頂きましたが、こちらの募集経緯を軽くお話します。
本当は「ミステリィ」にしようかと考えていたのですが、トリックやアリバイ工作といったハウツーになってしまいそうな気がして、もっと大きく「謎!」とさせて頂きました。
WEB小説を読むとき、私は技術を重視していません。いや、それも大切なのですが、技術はそれまでの作文量や経験値でしかなく、それは後から他者が幾らでも追加できるわけで、洗練された作品が読みたいのならばアマゾンしていれば良いわけです。
そうではない「剥き出しの作家性」、具体的には「編集」が入っていない作家性を読みたいのです。流行や市場を押し付けられた仮面ではなく、生身の生き生きとした、もしくは苦悶を過らせた、もしくは研鑽に満ち満ちた、作家様の魂と出会いたいわけです。
とか言いながら毎度「プロット」「プロット」と連呼しているのですが、このプロットこそ、最も作家の性格が現れてくる場所だと思っています。
特に顕著なのが「謎の出し方」。
初っ端にいきなり謎を出してしまうのか、じっくり溜めてから謎を出すのか、そもそも説明しないのか、このタイミングや構成方法に作家様の性格が滲み出るのでは?
そのような主旨で、今回のテーマで募集させて頂きました。
回を追うごとに文量が増加していますが、一作品、二千字以内で収めるよう努めます……。
【①】『そして翔は龍になった』 著:おさむら まき 様
https://estar.jp/novels/25676497
実は毎回「来て来てアピール」をしている作家様がいて、おさむら様もお声掛けさせて頂きました。感謝です!
ハードSF!
これに触れたかったのです。前回「ふゆ」様にて全開のコメディラノベを今企画へ送り込んで頂き、色々なジャンルに触れる快感がありました。
というか、私が好きなジャンルなので、どうしても今企画で取り上げたかったのです。
ガチガチの「SF《サイエンス・フィクション》」です。ここに「ハード」が付随します。「ハードSF」の定義も色々あるのですが、主だったものは「綿密な科学的根拠」に基づいた「科学によって動かされる問題意識」を扱う作品群です。(他パターンもありますが、割愛します)
本作、しっかりと、しっかりと! した科学考証に基づき書かれています。(重要ですので二度……)
内容的には、
車椅子生活を送る身体障害者の弟「翔」を持つ主人公「愛紗」は、ある科学者に巨額の資金を支払い、非合法の依頼を持ちかける。
「駆け回る事のできる体を、自由な脚を作ってあげてください」
学者の専門は「生体工学」。二十三世紀の世界では「オートマニア」と呼ばれる科学技術があり、これは生体末端を利用し、培養された別の生物に乗り移る、同期する事を可能とした技術。
未完成の技術であり、生命倫理上の批判意見も多く、さまざまな反対活動が行われる技術でもあり、反対活動家の雄は、主人公「愛紗」の母親であった。
愛紗は足の不自由な弟に「自由」を与えたい一心で、母に隠れて科学者へと依頼した。
科学者は問う。
「君は、何になりたい?」
弟の翔は言った。
「龍のように、空を飛びたい」
梗概からして、既に全力のSF作品です。この後、弟の「龍になりたい」希望を叶える為、科学者による「龍作り」が開始されます。
特筆すべきは、この工程。
龍という生物、巨大な体で空を飛ぶ為に必要な骨格、またこれを培養する技術や、操作に使用する技術など、仔細に説明されていきます。これが実に鮮明で専門的な解説もあいまり、本当にこれで龍ができてしまうのでは? と思わせる程、十分な説得力がありました。まるで「ジュラシック・パーク(小説版)」の前半シーンを見ているようで、緊張感と期待感に震えます。
また「龍の試験版」にて飛行訓練する場面も面白く、弟は熱血に、楽し気に飛行訓練を実施します。「ジョナサン・リヴィングストン!」私は勝手に呟いていました。
この二つの展開はストーリー上の要求にもなっていて、科学者の狂気性であったり、研究や訓練にのめり込む「足の動かせない弟」が、どれほど「動く」事への羨望を抱いていたのかが分かります。
このような場面で読者を惹き付ける作品を読んでいると、SF読んでるなぁ、という満悦感に浸れます。
こうしたSFギミックの魅力もさることながら、構成もしっかりと組まれています。
完全な「起承転結」スタイルです。「起」にて問題提起と趣旨説明を、「承」にて世界観の定着と感心を、「転」にて第二要素発生でサスペンスに展開、「結」にて収束。
時系列の狂いもなく、一から十まで物語を伝えています。
どこかで書きましたが、「結」には「収束」と「拡散」の二パターンに分かれます。きっちりと落として物語を伝えきるのが「収束」、その後二人はどうなるのでしょう? などと読者に委ねるのが「拡散」。(もっと別の意味もありますが、とりあえず)
基本は「収束」です。作品中で伝えるべき事は、全て伝えきるのが、やはり基本です。
本作では、全くブレない完璧な「起承転結」で、最後まで読者に依存しない鋼の意志で書ききっておられ、まさに壮観でした。
もう一つ、文章が実に精緻です。無駄を徹底的にそぎ落とし、選び抜かれた語録で構成されており、読み手にテンポロスの倦怠感を与えません。
作者の性格が、止めどなく溢れ出しています。
凝縮され、濃密な作品を届けたいという想いが「構成」「考証」「文章」のどこからも溢れ出ています。
ちゃらちゃらした楽観的な作品じゃなくて、練りに練られた重厚な作品が読みたい!
そんな読者は、是非本作を読んでみてください。間違い無いです。
前説でお話しした「謎」のタイミングも、きっちり「プロット1」「プロット2」で表面化され、そこまでの文章に散りばめられた伏線を見事に回収しています。
「プロット1」とは序盤のまず初めに読者に触れる「謎」で、「プロット2」は「転」もしくは「二幕の終わり」に出てくる後半戦を作る「謎」です。
謎は二つ必要です。
そのどちらかが「主題」に触れ、どちらかが「収束」に向けた謎にすべきで、本作はまさにそれ!
徹底した管理がなされた、科学考証もさることながら、非常にコストのかかった作品です。
しっかりと練り上げられた作品で、作者様の真摯な姿勢が伝わる良作でした。
正直、指摘はさして無いのですが、私なりの視点で挙げさせて下さい。
ページや文字制限の影響もあるかもしれませんが、少々詰まりすぎている気がしました。何もかもが精錬されていたのですが、凝縮しすぎていて息を付く暇が無かったです。主人公の友達が「めっちゃ」と一言入れただけなのですが、私はほっと肩の荷が下り、お茶を飲む事ができました。
ユーモアもあったのですが、それが高尚なユーモアで、やはり肩の力が降りませんでした。
多少の「緩み」「隙」を読者に与えてあげると、より広い読者層を狙えるかと感じました。(短編ならよいのですが、長編だと読み慣れない一般読者には辛いかもしれません)
後、主人公が科学者や母親に色々と疑問や反感を覚えるのですが、この辺りの根拠となる描写への文量がもう少し欲しかったです。ページを戻って根拠の文章を探す作業が何度かありました。
読書慣れした方以外への配慮があると、よりメリハリがついて面白くなると思います。
とはいえ、捨てる文章が一つもない、綿密な構成が「作家性」そのものだと思いますし、読者も信頼して読める作品でした。
(②へ)
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