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「マジ万字企画 【 謎 】編 書評②」
――― 閑話休題 ―――
先日、実母が私の昔の読書感想文を読んで「全然、面白くない。内容にもっと触れろ」とかほざいてきたのですが、「そういえば、『書評』の趣旨説明していない」と思い出しましたので、触れておきます。
書評にもパターンがあるのですが、今企画においては「何作か書いた事がある人」に向けて書いております。
実母のように「年間読本数、十冊以下」の人を対象にしていません。こういう方を対象にする場合は、オチ以外の内容を全て語り「面白い」を連打するだけの感想しか書きません。
でもこちらにお目通しして頂く方々は、手取り足取り誘導しなければ本を読めない人では無いので、重要ポイントを抽出する形で書かせて頂いております。
また、「やたら構成に触れる人」と「やたら内容に触れる人」で極端に別れますが、これは「どこに『付加価値』をつけるべきか」を考えた結果です。
内容に触れて「私はこう思う」を述べるのは「感想」の役割ですし、場合によっては第三者からの視点誘導になってしまい、作品意図や読書体験を阻害する可能性があります。
ですので「剛速球」を投げる人でなければ、内容を感想的に述べるのは遠慮しています。
前三回とも「100マイル投手」が一名は参戦されていたのですが、今回は(常連様では)不在です。
テーマ的に「構成回」なので、これはこれで良いのですが……、気分次第では某四名の方の作品を上げるかもしれません(笑)
【②】『少女迷宮 《かんばせ奇譚》』 著:軒下瑞燕 様
https://estar.jp/novels/25706420
前回、ミステリィは「随一の完成度を誇る構成」が存在すると書きました。それが推理小説です。
如何せん、主役が分かりやすい。「なぞかけ」を問われ、回答した人が主役で確定します。
更に構成も明白で、大抵は三幕構成です。
「事件発生」
「事件内容」
「解決」
この構成がしっくりとハマり、読みやすくて仕様がありません。しかも、ここに「トリック」というギミックがあり、「犯人捜し」という読書目的まで付随します。
構成面で無類の完成度を誇る為、ある程度ストーリー背景の描写を破棄してしまい、探偵役の動作や助手との絡みに文量を避けるメリットもあります。
また、このテンプレートを利用しミスリードを誘う事も可能です。むしろミスリードを誘わないと、今時の読者はついていかないはずです。
それほど擦られ過ぎたジャンルが「推理小説」です。
でもこれ、いざ書いてみると難しいです。
最も難しいと思われるのが、「情報の整理」。
本作は短編でしたが、推理小説はまず短編で書かれることが多く、これが可能であるとコナン・ドイルが示してしまった為、最早、ミステリィ作家の登竜門と呼べるのが「短編推理小説」でしょう。でも、短文であれこれと状況を説明し、それを伝えきるのは非常に困難です。
本作でもこの難問が圧し掛かっており、トリックよりも何よりも、事件の流れを追う事だけで頭の容量を使い果たしました。
探偵の立て方を、近所の少年と簡単な会話で魅せていて、愛嬌があって可愛らしいシーンで収められています。探偵が現場に出ない安楽椅子探偵の形式をとっているのも、どのように短編でまとめるかを考えた末の設定でしょう。
構成的にも「起」を飛ばす方法が採用されていて、短編推理の場合、これでも十分に物語が成立するので、一工夫の姿勢が見えました。
それでも尚、文量が不足していて、もっと色々書いてあげたいのだけれど……、キツキツで……との声が聞こえてくるようでした。
推理物で一番難しいのは情報の出し入れで、「事件経過」を読者に想像させ、その上で人物相関図を頭の中に描かせ、その上で時代背景を説明し、その上で探偵役を立たせて、その上でトリックを示し、その上で解決方法の論旨を作り、その上で……などなど、やる事が多すぎるのです。
ですので、「絶対的テンプレート」に乗っかって、大幅に描写カット、構成的なカットなどの工夫が求められます。
正直、短編で全てを網羅するのは困難です。開き直って一つに絞っても問題ありません。
今回の話で例を挙げると、「事件」を見せるのであれば、「人物」が多すぎるので読者の情報整理が追いつきません。これだけの人物を出すのであれば、主人公や時代背景の描写はオールカットしても良いかと思います。(これは別の短編で書く方が良いです)
初めの一ページで書ききり、それ以外は会話だけで事足りる……というか、会話すらカットしなければ、この事件内容の場合、伝えきるのが難しくなります。
探偵や時代背景を見せたい! のであれば、事件の登場人物を減らし、依頼人も不要です。犯人やトリックはバレバレになりますが、それらが分かっていても大丈夫な作りにすれば良いだけです。(この方法もテンプレートにあります)
何を見せたいのか?
事件なのか、探偵なのか、心模様なのか。
この取捨選択が短編の場合は重要で、全てを見せるのは不可能に近いので、どこか一点に絞って切れ味を出すのが、短編ならではの面白味だと思います。
文章や考察は巧みで、探偵も引き出せるものが多々あり魅力的でした。この探偵さんの引き出しを解放してあげると、もっと惹き付けられる作品になるはずですので、あくまで個人的な意見ですが、まずは探偵を引き立たせる事件から読みたかったです。
あと、指摘ばかりで申し訳ありません……、会話文の後の「と、」は無くても大丈夫です。
推理物特有の「書かなければならない情報」の整理に、とても苦心されている形跡が随所に見られ、頑張って! 頑張って! 心の声援を上げて読ませて頂きました。
少々苦言を多めに書きましたが、私も推理物は好きでプロットは幾つも作っていますので、この苦悩は非常に良く分かり、同士としての応援と、自分なら指摘を多めに欲しいなと思うはずなので、このような形に致しました。
また別の作品も読んでみたいところです。
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