「マジ万字企画 【 謎 】編 書評⑤」

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「マジ万字企画 【 謎 】編 書評⑤」

【⑥】『大江戸怪奇奉行事件帳』 著:エマ二世 様  https://estar.jp/novels/25637449  さて、「BLシェアハウス(創作グループ)」様から、続々と刺客が送られてまいります。  このままでは「BL祭り」が「シェアハウス祭り」になってしまいそうなので、その他BL作家様のご参戦を、心よりお待ちしております。  別勢力が欲しいくらいです。  さぁこい! どんなイケメンがご登場かい!?  そう身構えたのですが、なんと、  時代物!?  とか言いながら……与力×同心なんだろ?  え、  妖怪!?  てゆーか、BLじゃない! (重要)  まぁ、BLだけって方もいれば、両刀の方もいる分けで、層の厚さを窺えます。  さて、本作は「新作特集」ピックアップ作品です。  内容を説明する構成力が私に不足していたので割愛しますが、ざっくり話すと、  江戸の街で、ある男が殺害される。  同心の茂十郎は、この捜査に乗り出す。  という簡潔な粗筋です。  ※「同心」とは、当時の警察の警部、巡査みたいなものです。「与力」が警視以上(キャリア)くらい。大雑把に役所勤めの公務員で、時代劇にはよく登場します。  只、本作ではこの役職に「裏」と付きます。  「裏」とは何でしょう?  ストーリーの元来の主軸は「殺人犯を追え!」のはずですが、ここに注目が集まります。  そしてその後の展開も、「裏」を中心に回っていきます。  メインストーリーを追っている素振りで、実際に物語が追っているのは「裏」の方。  これが、「テンプレート崩し」です。  前回、今回と、ミステリィには「絶対的テンプレート」が存在し、それをミスリードに使う作家が途絶えない、と申し上げましたが、その一つがこれです。  絶対的テンプレートは、前述の亜衣藍様作品(王道パターン)で、小説を読むくらいの物語ファンなら説明不要の……いや、小説とか読まないけどドラマくらいは……って方でも知っている超有名テンプレートです。(この有用性は、前回ご説明しました)。  これほど分かりやすいテンプレートは「恋愛物の三角関係」や「ヒーロー物の勧善懲悪」くらいでしょう。(パっと思いついただけで、他にもあるはずですが)  故に、これ自体をミスリードに使える。  特に、ミステリィは「ミスリードが全て」と言って良いほど、ここに敏感です。  ※今企画を拝読して頂いております読者様には不要の説明かとは思いますが、「ミスリード」とは「作家からの作為的な視点誘導」の事です。マジックで言うところの「ミスディレクション」で、右手で「あちらを見てください!」と指しながら、左手で何かをするアレです。  ここでいう「ミスリード」は、普通はこう進むはずだ! という刷り込みが既に読者側にあるので、これをスルーしてしまう構成の事です。  本作でも「殺人が起きた!」というのに、全然そこに向かいません。素振りをしている程度で、物語の内容は「裏」に向かっていきます。  そしてこの「裏」が分かったところで、物語の全容が解明されるという、見事なテンプレート崩しでした。  ……とはいえ、この「テンプレート崩し」は既に何十年も行われていて、「テンプレート崩しのテンプレート」が無数にあり「テンプレート崩しのテンプレートのテンプレート崩し」とかいう無限後退に陥っているのですが、これを追っていても切りがないので、どこかで舵を切る必要があります。  本作では「人間ドラマ」にぐいっと寄せる形で、舵切りをしています。  ここでもベタに好いた惚れたではなく、「妖怪達の人間界での苦悩」が動機となり物語が動いていき、人間ドラマなのに一歩引いた目線での客観的示唆、もう少し深読みして「シーン毎の鋭利な強弱をつける」方法で人間とは違うモノの表現に成功していました。  全体的に気味の悪い雰囲気(良い意味)で進行できているのも、この鋭利な強弱ならではかと思います。  また、鋭利な強弱をつける為に「江戸の雰囲気」が有効的に活用されています。  先日紹介いたしました紅屋様作品でも「大正」の言語が使われていて、正直、これは読者にとって読み辛いです。本作でも江戸時代ならではの文体や風景描写が入り読み辛いです。  だからこそ、「まったりと味わえる」テンポに読者側の読書スピードが落ち着き、だからこそ「鋭利」が光ります。  妖怪物は、やけに古い文体が多かったり、時代背景を古くしたり、小難しい古書引用を持ち出すのですが、理由はここにあるのでは? ボンヤリとした読書ペースの中に、いきなり化物が牙を剥くとドキっと緊張します。これを狙っていると、私は考えています。  構成面、表現手法の「論」が多くなってしまいましたが、上手く「テンプレート崩し」が発動し、その下準備である「江戸の街」も上手に表現されていて、これらが人間ドラマを際立てる十分な役割を持っている秀作でした。  BL来るか! と意気込んでいたのですが、良い意味で肩透かしに合いました。  BLは限界突破されているそうなので、祭りでまたお会いしましょう!
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