「マジ万字企画 【 謎 】編 書評⑥」

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「マジ万字企画 【 謎 】編 書評⑥」

【⑦】『月に願いし君への想い。君は何を想う』 著:中島みつる 様  https://estar.jp/novels/25684560  今回「謎」編、最後の書評になります。長編でしたので、少々遅くなり申し訳ありません。  早速書き出して行きたいところですが、今回はかなりの部分を省き御紹介させて頂きます。  本作のメインテーマは「障害児」について書かれております。悪い意味合いは一つも無く、むしろ愛に満ちた言葉が多数散見されたのですが、私の諸事情にて省略させて頂きます。(作者様へは御相談済です)。  一番大切な「主題」抜きでのご紹介になりますので、その点をご了承の上、今書評を御拝読くださいませ。  と、少々重たい感じで始めてしまいましたが、これはどんな作品でもそうですが、「読み手」によって如何様な捉えられ方もされてしまうのが文学、のみならず「表現」というものです。  「表現」は常に共感を生むと同時に反感を生む要因にもなりますので、断固たる決意を持って書き上げるべきです。  少々の事で意見を変えるくらいなら書くべきではなく、中島様作品ではしっかりとした「想い」が書かれていて、「作家の顔が見える」とはこの事であり、この姿勢こそが最も素晴らしかったです。  さて、内容です。    主人公の「月渚(るな)」は、ある日の皆既月食を機に、こことは違う世界へ飛ばされてしまう。変りのない日常に見えたが、ある「一点」において、昨日までの世界と大きな違いがあった。この「謎」に関わる少女「花月(かづき)」と出会い、生活を送っていく。  理想と思えた「この世界」であったが、次の月食を前に、主人公は真実を知ってしまう。    所謂「平行世界」もののSF青春小説であり、「時をかける少女(アニメ版)」や「タイムリープ」、最も分かりやすく近かったのが「君の名は」、でしょうか。まぁ、男女の入れ替わりは無いのですしタイムリープも無いのですが、雰囲気はこうした青春物に「SFギミック」を搭載した作品群です。  青春物語に時折入る「SF」の感覚、以前ご紹介した「ソラト」作品もそうでしたが、青春とSFはとても相性が良く、停滞しそうなテンポをぐっと締めてくれる効果があります。  「謎」という意味でも、常に「月」がキーワードと設定されていて分かりやすく、本編とは全くかけ離れた世界での「革命軍」などの描写も、SFエッセンスとしては抜群に冴えていました。  ここで、「青春小説」の一番の難題、「テンポロス」について書かせて下さい。  青春物語で一番問題になってくるのは、「日常風景では、物語を動かすのは困難を極める」。この一点です。  作者的には動いているのですが、読者的には皆無です。  ですので、「舞台装置」の設定が入るパターンが多々あります。「SF」はその代名詞で、サスペンスやホラー型も多く、昼ドラお得意の「不倫」などは、まさにこれです。「スポーツ」もこれに当たります。これら全て、舞台装置です。(背景装置と言っても良いかもしれません)  これは仕様が無く、なんの装置も無しに「青春」をやったら、恋愛や性描写などの本能性質しか残りません。  この「舞台装置」の選択が、読者(ターゲット)の選定基準になります。  もう一つ、「舞台装置」と「青春」の割合も、これに大きく関わってきます。  先の「君の名は」を例に挙げますと、完全に「青春」重視です。あれを観に行った時、隣の席に十歳くらいの幼女が目を輝かせて観ていたのですが、あれは「タイムリープ」ではなく「平行世界」だと気づいていないでしょう。「紐」の意味も「隕石の入射角おかしくね?」とも「両親も入れ替わっていた」とも気づいていないでしょう。  幼女でも観られるのは「青春、恋愛」だから。  相当量のSF描写をすっとばしているので、非常に観辛く「なんてもの作ってんだ」と眩暈がしましたが、そんな理屈オジサンに向けた作品ではないので、十歳くらいの幼女でも観れます。どう考えてもあれは描写不足ですが、不足する理由は一点で「尺が無いから」。  そう。尺が、無いのです。  ですので、どちらかに思いっきり舵切りしなければならないのです。  本作に戻ります。  本作「二十万字」あります。  気持ちはすっごく分かります。これくらい無いと、SFと青春のどちらも書ききれません。二冊分書いているのと同じですから、二冊分の文量になります。(一冊の目安は「十万字」です)  よって、これは適量ではあるのです。  どちらもしっかり描かれていて、一シーン毎の文量自体は多くないので、読み辛いという分けでもありません。  青春小説としてもSFとしても成立しています。(むしろSF説明を成立させる為にシーンが増えていたかもしれません。「タイムリープと平行世界の違い」や「体転送と魂転送の違い」など)  そのどちらも面白かったです。SFが挿入されるタイミングも計算されていて、ページを捲る原動力になって素晴らしかったです。  WEB小説としては、主題も含めて三要素が過不足無く書かれているので、とてもバランスのとれた良作でした。  とはいえ……「二冊分」は、商業的には不向きになってしまいます。「君の名は」が四時間あったら、間違いなく企画会議の段階でボツくらいます。世界一の監督S・スピルバーグですら「半分以上はカットされている」と語っています。 「青春100%」「SF100%」は、WEB小説か大御所小説家以外では不可で、漫画も脚本もボツくらいます。(小説は予算が低く済むので、この点はかなり緩いです)  とはいえ、きっちり全て書きたい! が不正解という分けでも無いので、「商業化とか考えていない」のであれば、間違いではありません。もしくは「WEBでファン増やして書籍化を狙う」場合も問題ありません。人生を考えても、書きたい事を書き尽くす方が良い場合は多いです。  これも含めて「ターゲット選択」。   「削る美学」も、文学ないし「表現」にはあるので、こちらにも挑戦してもらいです。これはこれで楽しいものですし、この長編でプロットが纏まっているのであれば、半分の十万字であってもきっと面白い作品ができるはずです。(本作でも十万字にする事は可能ですが、ストーリー以外の大部分カットになるので、それでいいのか? という疑問はやはり残りますが……) ※こちらは追記です。利潤主義で「どちらも100%書け」と言われた場合、かなりの確率で「作家の書きたい事」が最終的には削られます。それを踏まえた上で、「利潤」と「書きたい事」の割合計算をして「(書きたい事を)削らせない方法」を考えておくと、色々と役立ちます。(脚本家はコレをみんなやってます)  これは普通に指摘ですが、「なぜ」主人公が「一磨」に感情移入しているのかが分かるワンエピソードが最序盤に欲しかったです。主題的にも物語的にも導入的にも、最重要エピソードかと思われます。「無条件に」を書くには、主題が倫理性を含み過ぎているので……。  ――― 【あとがき】 ―――  次々回「第二回BL」募集の告知をさせて頂きましたが、なぜ二回これを募集するのか? 後、今後まぁ募集しないであろうテーマだけ先に上げておきます。 「なろう系」の異世界は、まず募集しません。  そちらで書籍化を目指す方は、頑張って下さい。応援はしています。  でも今企画は書籍化ではなく「面白い」をご紹介したい企画で、「売れている」とか「主流」とか、商業的な面は加味していません。  BLも、同人的にはシェアがありますが、一般層から見れば「変人扱い」のジャンルではあると思います。「腐女子」とかいう下らない言葉があるくらいですから。 「構造的」に考えて、異性愛よりも同性愛の方が絶対にハードルは高くて、社会的偏見も書ければ、オメガバースのように「SF的」な特殊世界も編み出されています。 「お姉様、妹」が素晴らしい! と言ったのは何も私だけではなく、川端康成などの大御所作家がこれを取り上げ、当時(今でも)同性愛を禁忌とする社会的抑圧に対し、だからこそ美しいと、声を上げて参戦しました。   三島由紀夫が世に出た代表作など「仮面の告白」というゲイ物語です。  元来、「文学」が世界を動かしていました。  結果がどうあれ、世界を動かしたのは「抑圧された人間達」です。  今回「SF」から2作品参加して頂きましたが「今は売れないから」と、賞などでは狭き門です。  でも、本気の作品の核を読まれて「売れないから駄目」と言える方が、ここの読者、いえ読書ファンにいるでしょうか?    読書ファンの割合は、ここ十数年変化していません。  変化、減少しているのは、「流行」と「分かりやすさ」だけを取る表層だけです。コンテストや賞などはあくまで「商売」なので、利潤主義なのは仕方がないです。私も毎日、全く興味のない商品を売りさばいていますが、売った商品で満足してもらえるのも、まんざらではありません。  でも、興味の無い商品を売っている毎日ですから、WEB《ここ》でくらい「良い」「面白い」と自信を持って売り込みたいのです。  皆様の魂を売り込む方が、何倍も楽しくて充実しています。  毎回ですが、色々な作風の作家様に出会え、会話も交わさせて頂き、有意義な時間を過ごせています。  自作書かずに人の作品ばかり読んでいて楽しいか? と思われる方が多くいらっしゃるかと推測しておりますが、いや……普通以上に楽しいですよ。  もしこの企画に参加されている方が「革命戦士」として文壇に立たれたら、「あいつはぁ、わしが育てた」などと爺になった時に町内会で吹聴する権利もありますし!  今回は特に、全ての参加者と会話ができましたので、嬉しかったです。  革命戦士よ来たれ!  次回、短編特集、新規参戦者絶賛募集しております!  後、毎回通常作品での参加者様から「空気読めてないかもしれませんが……」とのコメント頂きますが、別にBLマンセーの企画では無いので、気兼ねなくご参加下さい。  全然関係ないですが、「万字」の表紙が「妄想コン」の方と被っているので変更したいのですが、カッコいい書体とか書けるアプリ知っている方いましたら誰か教えて下さい。 ーーー 次回 「短編特集」! --- もう明日ですが、短編募集しております! 募集期間 9/26 20:00 ~  10/3くらい 書評書くのは 10/4以降です。 エッセイとか、プロット集とか、蘊蓄集でも大丈夫です。 むしろ蘊蓄集読みたいかもしれません。 宜しくお願いします!
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