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「マジ万字企画 【 短編 】編 書評③」
【⑦】『宇宙戦艦ヤマダ』 著:円する 様
https://estar.jp/novels/17900701
初参加して頂きました、円する様作品です。
タイトルで一目瞭然、SFパロディ。
ある日、謎のエイリアン達が地球へ襲来、地球全土をレーザー砲で焼き払った。対抗する6名か7名の人類は宇宙戦艦ヤマダに搭乗し、エイリアンの一部を駆逐する。
ガチガチのパロディ作品はここ何年も読んでいなかったので、久しぶりに楽しい時間を過ごせました。
そういえば近日、「日本沈没(小松左京)」のアニメ版が劇場放映されるそうで、私が最初に読んだのは「日本以外全部沈没(筒井康隆)」というパロディだったと思い出しました。
SFパロディは昔から存在していて、プロアマ問わず色々な方が筆やカメラを取る、高尚な遊戯のようになっていますね。
SFの舞台装置は実にインパクトが大きいものばかりで、それさえ使っておけばパロディに見えてしまうところ、余白を好きに使える点からもパロディに向いているのでしょう。
本作ですが、一つのSF作品というより、色々な作品を混ぜ合わせたパロディ作品で、全体的には「宇宙戦争」と「宇宙戦艦ヤマト」の組み合わせなのか、私的には「謎の円盤UFO(というかこれでしょ 笑)」や「サンダーバード」のようなコミカルなプラモデル劇が脳裏に浮かびました。昭和SF特撮のようなタッチで、テンポの良いマーチング音楽でもかかってきそうな雰囲気でした。
短く区切られたページですが、それ毎に次のイベントが発生して物語を牽引してゆくので漫画などの方がテンポとしては合っているのでしょうが、今こうした作品をまともに漫画で描いても微妙でしょうし、小説で想像させてしまった方が読みやすいのかもしれません。それ相応のSF知識が無いと面白さは半減するかもしれませんが、ターゲットは明確に三十代、四十代以上でしょうから、昔懐かしい共感も読者は得られると思います。
余計な文章が一切なく、遊び心に溢れていて、あっという間に読めてしい、オチまでしっかりついているので読後感もあり、小休止に読む一作としての完成度は非常に高かったです。
後、小ネタが多いので「この部分は〇〇の引用かな?」などと考察もできそうで話題性も作れそうでした。個人的には、もっと小ネタ挟んで頂いても良かったくらいです。
瞬く間に読めるので、皆様にもオススメします。良い意味で、安っぽい面白さがあります。
只々面白いだけの作品というのも娯楽としては有用ですし、むしろそれを狙って作る方が才能を必要とされますので、また続編(たぶん無いでしょうが)ありましたら読んでみたいです。
指摘する内容では無いので、次回作への個人的な願望ですが、ネタがオーソドックスでしたので、元ネタが分からないような「マニアック」パロディシリーズとか、タイムリープや迷宮で謎解きするような「高IQ用」パロディシリーズとかあれば読んでみたいです。
SF勢が少しずつ増えてきているようで、とても嬉しいです。SF大好きです! 純文学勢が少ないです! 来たれ!
【⑧】『星釣りの夜』著:若菜 様
https://estar.jp/novels/25682796
初参加頂きました、若菜様作品です。
短編という性質上か、ファンタジー作品が多いような気がします。気だけかもしれませんが。
内容。
サラリーマンの主人公はある日副業である「星釣り」に出かける。一年に一度、星から落ちてきた「物語」を釣り、本へと書き写す仕事。この世界での出版は「星釣り」以外では成されていない重大な仕事である。しかしこの年、主人公の釣り上げた物語は白紙であった。重大な任務に失敗した主人公は……。
ネタバレしないと私も白紙になってしまいそうなので、
※ネタバレありです。
まず目を惹くのが「星釣り」という謎の言葉。そしてそれが、当たり前に成立している世界です。
ファンタジー世界を構築してそれを前提にした時、最も困難を窮するのが「序盤の情報整理」でしょう。たぶん、この企画内でも何度も書いています。箇条書きやナレーションで説明していくのか、じっくり描写をしていくのか、そもそも念入りな説明を入れないのか? など、この整理方法で作者の性格や作風が確定する重要な導入です。
今作はどちらかと言えば「じっくり描写」に近かったです。只、短編ですので端折った描写にはなっていました。あくまで私的な意見ですが、この文量配分が非常に良く、ファンタジー特有の謎めいた世界観と、小出しに説明されて紐解かれていくテンポが快感で、スリル感も残したまま最後まで書ききれていたのは秀逸です。すごくセンスが良いと思いました。
正直、三千字の場合、ファンタジーの世界設定の説明まで書けない方が多いかと思いますが、ここに程よく触れている事で読後の爽快感がまるで違います。
また世界観のほとんどの描写が「主人公が現場に向かうまで」という行動に即して行われるので「説明されている」感じがまるでなく、よりスリリングな没入感を与えている点も素晴らしかったです。
少ない文字数の中できっちり説明できる辺りに作者の力量が窺えますし、読者も信頼できると思います。
前半については、全く文句はありませんが、今回ポイントになるのはこの「三千字」と「後半」かと思われます。
文字数については上記利点もありますが、検討材料にもなっています。
ポイント、というだけで賛否はあるかと思いますので、私の主観です。
「星釣り」という面白い設定があるのですが、実際にこの現場がほぼ描写されません。これが肩透かしに思えました。物語上の「鬱積の解放」はここにあったはずで、中間の折り返しでもあり、序盤の卓越した導入もあり、ここしかない! というタイミングでの「星釣り」でしたので、もう少し豪快に魅せてあげても良かったのかなと思いました。
そして後半ですが、少々作者が入りすぎている気がします。
(ネタバレ)
「星釣り」に失敗して書籍は白紙になってしまったので、結局主人公が本編を書いて……、となるのですが、ここに作者の意見が入りすぎている気がします。
小説執筆についての想い、物語に対する想いなどは自伝的な物語で採用するには面白いのですが、ファンタジーの中に取り込んでしまうと熱量の違いで物語が分離してしまいます。
作者の想いではなく、キャラクターの想いとして書いてあげると物語が纏まった気がします。これには勿論、キャラクターを動かしてあげる必要があります。
で、ポイントの「三千字」です。
こちら妄想コン作品ですので、文字数はまだ十分にあるので、この二点は書けたのではないかと。
「星釣り」描写も「キャラクターを動かして話をさせる」も、どちらも可能だったかもしれません。(それでも五千字くらいで収まったのかなと)
かなり私的な指摘になってしまいましたが、序盤が非常に面白かったので、私ならこうするかも? を書いてみました。
※ 別にこれが正しい分けでもありません。
この言葉が良いかは分かりませんが「優秀な作者様だな」と率直に思いました。また別作品がありましたら、ご参加頂けると幸いです。中長編読みたいです。
(④へ)
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