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「マジ万字企画 【 第二回 BL 】編 書評②」
【③】『或る羽根が生えた蛇の孵化』 著:鷹取 はるな 様
https://estar.jp/novels/25311002
常連様ですのでご紹介説明は致しません。というか、今回長文になるので短く紹介。万字界のマイク・ベルナルド! 鷹取様。
いきなり言います。
今までで、ダントツに良かったです!
圧倒的に良かったです!
そして、賛否が私の中で渦巻ました。
持ち上げておいて下げるパターン! ではなく、「万字企画」の大テーマである「作家性」の最大の岐路が含まれる、重要な疑義が含まれていましたので、今回はかなり書いてしまうと思います。
否の前に、上げまくります。
本当に面白かったです。
内容的には、
ある中世欧米風のファンタジー世界の話。
叔父の出世の為に、男娼として大貴族への貢物にされる日々を過ごす主人公。その日も大公への貢物として贈られたのだが、そこで、ある男と出会う。その男は「試し役」であり、大公へと献上される前に男娼(主人公)を試す役割の男であった。
幾度の行為を重ね、二人の間に愛が生まれるのだが、二人は進む道の違いを認識し、袂を別れる。
そして主人公は別の大公への「貢物」に出されるのだが、その折、迎え手紙が舞い込んでくる。
以前売られた大公から、再度呼び寄せられた。
そこで待っていたのは、あの「男」。男は、国の王子であり、「他の男に触れさせたくない」と、主人公を自身の部下へと任命した。無論、恋人としての役割も持たせて。
がっつりハードなBLです。濡れ場が大半を占めている作品ですが、随所に光るものがありました。
構造は、前回も登場した「暴れん坊将軍」パターンです。和倉眞吹様パターンよりも、さらに分かりやすい「暴れん坊将軍」です。如何せん、初っ端から彼が王子だと分かるシーンから入るのです。
「分かっているのに、面白い」
最序盤がゴールインした後の主人公と王子様がイチャイチャしているシーンから入るので、もう素性は初めから分かっています。ですので、「実はあの人が王子様でした」ドンデン返しは使えないはずです。
使えない「はず」なのです。
余裕で使ってきました! 初めから提示されている展開なのに、王子様が登場した時に涙が出るくらい感動しました。
「手の内くらいバレてても、平気だから」的な余裕に打ちのめされました。
これを成立させていた点が二つ。一つは「細かなストーリー的伏線」と「大きな構造的伏線」です。
新語を使いましたのでご説明します。
「ストーリー的伏線」とは、物語の進行上、起承転結を整える為に使われる伏線。
「構造的伏線」とは、物語の構造上、要求される事態への伏線。
です。私の造語です。
本作で説明すると、プロローグでは「妹の結婚式」のシーンから始まります。それを遠目で(森の中で)見る主人公と王子様が、さっそくにイチャイチャするわけですが、この「妹の結婚式」はストーリー上の伏線になります。「なぜ、妹の結婚式をこんな場所(森の中)から見ているのか?」。これが第一の謎になりますが、これはストーリーを動かす為のおあつらえ向きの伏線であり、本来見せるべき「構造上の伏線」からミスリードを誘います。
「構造上の伏線」は、主人公と王子様が既にラブラブな点です。
今作の「起」は、非常に複雑で、かつ理想的な複雑さを持った「起」になっています。あの序盤だけを見て、この後がどうなるのか、大抵の人は分からないと思います。物語進行のベクトルが何方向にも伸びているので、どこが作者の狙いなのか分かりません。
これは、指摘ではありません。むしろ、理想的な「起」です。
かなりの読者が「妹」が焦点になると錯覚したはずです。
ところがどっこい。次章からは主人公二人の濡れ場で話が進みます。妹なんか出てきません。ミスリードで視点をズラされた上で、構造的なテーマを存分に見せ、始めに目くらましを受けたせいで、男が「王子様」と判明した瞬間に「あ、そうだった!」と、漸く思い出します。
あ、いや、実際に読まれたら「いや、普通に王子様なの覚えてるけど」って思われるはずですが、それでも若干霞みがかっていたはずなのです。
展開は分かっているのに感動したのは、この王道展開を一度ミスリードでスカされたからです。(これは潜在的な無意識に問いかける作風で、実際にやろうと思うとかなり難しいです。いや、狙って効果を出せる人間はたぶんいません)
その上で、最後に主人公の苦悩が明かされ、その回想で「妹」が回収されているので、全てのパズルがハマる快感があります。
「ストーリー的伏線」の衝撃はそれほど大きくありません。しっとりと心の隙間を埋める余波があります。
「構造的伏線」は、ズドーン、と心を穿つものです。
このどちらもが見事に成立していたのが、素晴らしいのです。
そうそうできないです。プロ作家でも狙ってできる人は居ません。
これは完全に余談ですが、先日コミュの方で、宮崎駿氏の言葉を書かせて頂きました。
「考えて考えて、鼻血出るまで考えて、それでも出せない奴がほとんどなんだよ! そういう世界なんだよ!」
とのお言葉ですが、この「出す」とは何か?
何が出ればOKなのか?
その答えが、明確にこの作品に描かれていると分かりました。
上記、それなりに論理的に書きましたが、本音を言えば「よくこれが出たな!」です。
鷹取様作品、既に何作も読んでいますが、こんな作品が出てくるとは思っていませんでした。今まで読んだ作品と、まるで別物です。「整合性よりも感性を」が鷹取様かと思っていたのですが、本作は「整合性の塊」でした。その上で「いつもの」作家性を失っていないので、間違いなく、鷹取様が書いたと分かる雰囲気も残しつつ……です。(差別化にも成功しているという事です)
今書評ではこの程度の良いところしか書きませんが、他にも無限にあります。三時間くらい話せる自信があります。
これなんです。
この特異性を「出す」事ができるかどうか? なのです。
四番バッターのする仕事は、四回打席に立って、一発ホームランが出ればそれが最善なのです。
りふる様対談でも(別の場所かも)で書きましたが、私的には、りふる様作品の「ジーンとアーロンの場合」は、傑作です。なぜ傑作か? この作家さんが、これを書いてくるとは思わなかったからです。しかも、ほぼ隙が無い完璧なものです。
鷹取様の本作も、完璧にホームラン打ってます。バックスクリーン直撃してます。いつもは左方向に引っ張るのに、今回はセンター方向直撃なんです。
この人達、こういう事するんだよな……。毎回じゃないところが、また劇的なのです。という括りが「感性派」の皆様です。
よし。上げてばかりなので、下げますか。
下げるとは言っても、私が日頃言っている「肌感」についての説明になります。
鷹取様本作、突如上げたりふる様作品、どちらも「闇のあるファンタジー要素を含んだ人間ドラマ」になっています。前回ご参加のツルカワ様作品も同様です。
単に私が、この系統が好きなのです。
この三作品、全て重々しい世界観が背景にあり、その中でもがき苦しむ人間が描かれています。その系統が、私は好きなのです。
「肌感」が合うとはこの事で、私的には傑作です。でも、そうでは無い方も多いはずです。以前から、「感性派の人はとにかく書いて!」と言っている理由がこれで、「四打席に一回ホームラン」の理由もこれです。
合う人には、とことん合う。それ以外の人にはたぶん合わない。
それが最大の利点であり、弱点にもなります。
では、これを覆す方法は無いのか?
あります!
作家性で、ぶん殴ってしまえばいいです。読者に有無を言わせないパワーで顔面を殴ってしまえばいいのです。
基本、売れている著名作家様は全て(歴史上の文豪も含める)、そういう作家様です。
圧倒的な個性で、好きな人を信者にし、そうでない人も力でねじ伏せています。
そのくらいのものを出せ!
というのが、やはり現存する化物、宮崎駿の言いたいところでしょう。
只……、が付きます。
鷹取様とはコメントなりコミュなり、色々と話しをさせて頂き(座談会もありがとうございました)、今回の私の書評に「?」が沢山付くのではないかと思っています。
今まで見た作品と、本作が離れすぎています。
客観的にみると、適正は今作です。むしろ、今までお話させて頂いた会話文からは「前回までの作品」が生み出されるイメージが沸かないのです。でも、今作はびったしフィットします。
人間性とフィットするから、「面白い」と私が感じたのは確かです。
無論、一人の人間に一面しか無いはずがありませんから、今までが「作家用(一人称用)」で、今作が「本音用(三人称用)」の表情なのだと推測されますが、どちらが良いのかは私には分かりません。
毎度、鷹取様とはいえば「ぐいぐいくるキャラクター」と書きましたが、今回はそれとは全然違うのです。受け、攻め、共に一歩引いています。それに引かれてか、世界観、文章、作者の視点も一歩引いています(俯瞰していますし、整合性があります)。
「ぐいぐい」も一面であり、「整合性」も一面であり、どちらも作者の一面なのですが、これは真逆の素質であり、「この作家の色」として宣伝活動をする営業職の立場からすると、「どっちで売ればいいんだぁ!」と悩まされる作品でもありました。
まぁ、この書評の文量からも分かるように、営業を悩ませる程の個性をぶつけられるのは、こちらとしても至福の悩みですので、この様な作品をまた生み出して欲しいです。
過去最大の文量になってしまいましたが、これでも半分以下です。後は「感想戦部屋」で褒めちぎります!
読んでいて泣きそうになったのは、初めてかもしれません。
それほど、私の心は撃ち抜かれました。大絶賛で帯書きたいくらいです。
(③)
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