「マジ万字企画 【 第二回 BL 】編 書評④」

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「マジ万字企画 【 第二回 BL 】編 書評④」

【⑥】『ヒネクレモノ』 著:亜衣藍 様 https://estar.jp/novels/24898398  常連BL勢、亜衣様です。今までは「探偵物」のシリーズでご参加でしたが、今回は別シリーズ。私的には新シリーズ「芸能物」ですね。  探偵物芸能版もありましたので、若干のデジャブから入ります。  今までの作品でも傾向として見え隠れしていた部分が、今回は大きく取り上げられていました。(後述)  まずは、内容。  かつてヒット曲を出した歌手の「ユウ」は、今では三十路となり、「一発屋」、「忘れられた歌手」として、事務所では首切りの対象になっていた。最大の理由が「歌の仕事しか受けない」スタンスであり、バラエティなどの仕事を一切受け付けない。現状売れていない歌手としては、致命的な扱い辛さがあったから。  そんな折、仕事で一緒になった今人気絶頂のアイドルの「零」に一目惚れされ、後に強姦されてしまう。(未遂)  仕事と私事、二重の精神負担がユウを追い詰め、ある人物を頼ってしまう。暴力団関連とされる芸能事務所の社長、「聖」だった。  聖の愛人として厚遇を受けるユウだが、二人の間には「愛人」以上の秘め事があった。  暴力団事務所の社長愛人になってまで芸能人生を延命しようとするユウの姿に、落胆する零。  三人の想いは交錯していく。  具体的な感想の前に、まずは構造を論じておきます。 「基本の登場人物は、三人が最適です」  物語全体で三人、という意味ではなく「構造に関わる人間は、三人」もし長編や複雑な構成にする場合は「一テーマにつき三人」、もっと表面的な製作方法で「ワンシーン(一画面)に映れるのは三人まで」、とかあります。  どれにしろ「三人」がキーワードです。  なぜ三人なのか?   まず端的に、三人以上いても邪魔です。ご自身で自作の推敲をしている時に、その場に何人いるか数えてみてください。四人目以降は、ほぼ会話に参加していないはずです。もしくは居なくても成立するはずです。つまり「モブ」でしかなく、であれば不要です。名前無しのモブキャラにして、情報整理すべきです。(読者が読みやすくなります)  かなり長くなるので簡潔に纏めると、基本的には「主人公」があり、「主人公のテーゼを阻害する人間(もしくは物や社会や制度)」の対立がメインプロットになります。  でもこの場合、「主人公が(テーマに)気づく」事ができない、やろうとすると長尺を使ってしまう可能性があります。また、更なる苦難を主人公へ与えたい場合もあれば、カタルシスに向ける助力を授けたい場合もあります。  これは「物語を動かす機能」であり、よく「キーマン」と呼ばれるのは、この機能を持った第三者です。  よって、「二人で」物語を完結までに向かわせるより「三人で」転がした方がテンポが良く、とても読みやすくなります。(これは小説に限らず、全ての物語に当てはまります)  この「三人」をどう配置するのか?   個性が最も顕著になる箇所ですね。  ちょっと長くなりましたが、本作に移ります。  この三人の使い方が、秀逸でした。  構造的な三人は、粗筋にて名指しした三人で、その折々で「主人公」「対立」「助力」の立場が変更されます。  これを「視点変更」と呼びますが、基本、視点変更は芳しくありません。視点が変わるといちいち世界観が変わるので、書いている作者は面白いかもしれませんが、読者は読み辛い仕様です。  本作では、これが成立しています。(読み辛くありません)  大きな要因は、「文章」かと推察します。  亜衣さんの文章はとても読みやすく、イメージが伝わりやすいです。今、誰が、どのような感情で、どのように動ごいているのかが分かりやすくて、視点を変更されても違和感なく付いていけます。  もう一つ、その視点キャラクターを「三人称」で見せるのが上手いので、より分かりやすい。  一応、よくある失敗例をあげます。作者が視点移動をする理由は「この人の気持ちを書きたい」だと思いますが、安易に書くと読んでいる側は鬱陶しいです。別に、全員の気持ちを知る必要はなく、せっかく感情移入している主人公を逆に薄めます。全員の気持ちを説明して欲しいなんて、望んでいません。エゴになりやすいポイントです。  ですので、一人称や「神様の心の声」などで安易に補足するのではなく、三人称で「会話させながら動かす」のがベターな作法です。  冒頭に話した「亜衣さんの作品傾向」ですが、これが顕著です。入り過ぎず、遠すぎず、上手く感情を捉えています。  これが「分かりやすい」に直結する要因でもあります。  以前も樫村さんだったかな? で書きましたが、「分かりやすい」は、幾重にも調整を張り巡らせなければ、成立しません。簡単に読めるものこそ、数々の注意が払われていると分かる良作でした。    おそらく、ご本人の性格的にも三人称に向いているのでしょう。推理物を書くタイプの方は、客観的視点で作品俯瞰できる人が多いですね。  今回の「三人」の使い方はけっこう複雑なはずですが、上手く整理されて好感でした。  おまけで「整理」についても書きます。  三人のキャラクターがちゃんと立っていて、独立して動いていた、という事です。  「ユウ」の生真面目で女々しい性格、零の若気の至り、聖の愛情、三者を成立させるのはバランス配分が非常に難しいので、この辺りも計算に組み込む必要がありますが、バッチリでした。絶妙なさじ加減でした。  とても心地よく読ませて頂けました。  ちょい指摘しておくと、「ユウ」と「聖」の関係性が想定のど真ん中過ぎたので、どんでん返しになっていなかったです。  とはいえ、そこを崩すと物語が成立しなくなるので、「第二の謎」で展開してクライマックスに持っていくと盛り上がる内容になるかな? 私なら、そうするかも? って感じました。
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