「マジ万字企画 【BL】編 書評③」

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「マジ万字企画 【BL】編 書評③」

※後日枠、追加です。 (前々回の「BL編」でのご応募作品ですが、テーマ的にキャラクターに沿っていたので、今回掲載致します) 【⑥】『雪解けを待つ君と』 著:暁蒼 様  https://estar.jp/novels/25585208  こちら、オメガバース設定でのBL作品となります。  以前鷹取様作品(第一回)にて、この設定を知ったのですが、やはり一番の難問は「序盤に」この設定をどう伝えるのかでしょうか。  方法は色々とありますが、行動の会話の中に織り込んでいく、初っ端に箇条書きしてしまう、そもそも露骨に説明しない、などがパッと思い浮かびます。  この選択方法は、「何を見せたいのか」に依拠するのかと。  本作で「見せたいもの」は、会話。次々と飛び込んでくる会話が実に生き生きとしていて、テンポよく読める快感があります。  箇条書きスタイルでのオメガバース説明でしたが、これが最適で、その後人物達による会話で不自然なく補足されていたので、とても読みやすく、この設定を知らない方にも十分に伝わります。  また登場人物が次々に出てくるのですが、「書きたい人」つまりは主人公が明確に定まっているので、ブレる事なく物語が進行していき、オメガバースの構造的に内在している「差別意識」が主人公の葛藤、抗うべき苦難に直結しており、これ以上ないほどシンプルで、お手本のような構成でした。  サラっと書きましたが、これは意外と難しくて、基本的にほとんどの作品、特にこうした異世界を舞台に設定した場合、(ましてやオメガバースという設定もある場合)序盤で膨大な設定説明になり初速を落としがちです。この点が短文や会話だけで整理されていくのは、とても好感が持てます。  「主人公」の作り方で重要なポイントは、如何に「主人公が苦難を乗り越えるか」。  小説の場合は別の方法もありますが、まぁ世の中の作品の九割がこの構造を取っており、主人公の苦難をどれだけ簡潔に伝えるのかが「起」の最大目的になります。最も多い方法論は「設定構造が既に主人公に苦難を与えている」パターン。本作も正にこちら。オメガバースという設定上の苦難があり、この点を読ませる工夫もありました。(後述します)  今回読ませて頂いた範囲が物語中の「起」になると思いますが、導入としては成功だったと思います。  もう一つ、重要な点がありました。  主人公の「立て方」の方法で、「扇状型」があります。(もしくは『照明理論』)  有名な作品が「市民ケーン」(映画)で、主人公の人物達が「ケーン」についてあれこれと語り、その会話で主人公のイメージ像を作っていく脚本術です。  本作でも一部にその形態が取られており、主人公以外の人物が様々に語る事で、客観的な視点誘導から主人公の魅力を語っていました。    只、同時に指摘もこちらにあります。登場人物が多くなってしまいます。  この方法を「脚本術」と書いた理由で、小説には「映像」がありません。映画であれば演者が違うので、一目で誰が話をしているのか理解できますが、小説でこれをやるには相当なテクニックを要求されます。  次々と人物が出てきて話を始められても、誰が話しているのか分からないのです。  この回避方法で多用されるのが「言葉じりを変える」ですが、個人的には好きではありません。(本作には使わていませんでした)  小説では「章立て」を使う方法が、一般文芸においても主流でしょう。こちら作品では「おまけ」として書かれていましたが、あの方法です。  メインストーリーでは人物を絞り、外伝的に別人物で補足していくと、どちらのキャラクターも映えてきます。  この様に、本書では様々な取り組み、特に「主人公」を如何にして立てるかが検討されていて、物語への愛情がひしひしと感じられます。こうした作者の愛がある作品は、読み手としても好意的に受け取りたくなりますね! 凄く良い作品でした。 『まとめ』    色々書きましたが、本当に一番目を惹いたのが「更新ペース」と「文体」。おそらくですが、全体プロット無しで書かれていませんか? 週刊連載の長編漫画のように、作っては出し、作っては出しで掲載されているように見えました。(違っていたらスイマセン)  全っ然悪い意味ではなく、かなり根気のいる作業だと思いますし、しかも一作品でこれを続けるには並々ならぬ愛情が無ければできません。更にご自身で挿し絵まで描かれていて、情熱的な姿勢に感動しました。  是非、このまま愛情を注ぎ続けてあげて欲しいです。  たまに振り返って、文章など追加修正してあげるとより奥深くなるはずです。 (私も推敲せずにすぐ出してしまうので、後々大改稿になります……)
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