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「マジ万字企画 【キャラクター】編 書評①」
「一ページ目から、キャラクターは話しかけてくれない (シド・フィールド)」
まずは、今回、募集企画にて投稿して頂きました皆様へ、多大なる感謝を申し上げます。
さて、今回は「本気キャラクター」にて募集させて頂きました。この経緯を軽く触れさせて下さい。
物語を成立させる為に必要な要素は三つ。
「ストーリー」「キャラクター」「描写(小説の場合は文章)」。
当たり前ですが……この三つです。前二回の中で何度も登場しました「構造が」「プロットが」という言葉ですが、ほぼ全て、キャラクターの為に使っている言葉です。
物語とは「人」を書く為の媒体であり、人を書かないのであればそれは論文です。いや、論文ですら人の為に書かれています。
故に、「脚本入門」「これで書ける小説!」「漫画の作り方」などの入門書に限らず、私の心の師匠であるシド・フィールド、新井一、小池一夫などなど、プロ育成向けの指南書にも必ず「人を書け!」と明記され、明記どころかほとんどのページがそれに使われます。
極論を言ってしまえば、どれだけ凄いストーリー構成も、どれだけ巧みな文章も、「良いキャラクター」には絶対に勝てません。むしろ、理屈があろうがなかろうが、良いキャラクターさえ作れてしまえば、後のものは幾らでも付け足せるわけです。(参考「ルパン三世」)
キャラクターこそ、物語の脳であり心臓!
ここ二回を読ませていただき、ガッチリ構成を組んでキャラ立てしている方から、本能のままにキャラクターを作られている方、自身の経験を盛り込んで作られている方と、手法も様々で個性も様々でした。
そんな「心臓」を是非読み込ませて頂きたいと思い、どの道避けては通れないテーマですので、募集させて頂いた次第でございます。
募集要項で「内容には触れません!」と書きましたが、たぶんめっちゃ触れます。それも全てキャラクターの為のものですから。
【①】 『眠れる午后のサラリーマン、その真相』 著:鷹取 はるな 様
https://estar.jp/novels/25515727
「BL」編にて、私にオメガバースを教えて頂いた鷹取様作品です。
まず、強調して話したい点がありました。
「一人称は、小説の最大の武器です!」
映画の武器は「映像」。漫画の武器は「絵」。小説は「一人称」です。小池一夫先生のお言葉で「そもそも、三人称なんか必要ないよね。どうせ、その場に主人公がいないと物語は動かないんだから」(こんな口調ではありませんが)、とあります。
この具体例が、こちらの作品でした。
その前に、作品構造に触れます。
前半と後半の二部構成で、二部は全て濡れ場です。この後半を見せる為の前半であり、ここに込み入ったストーリーを入れ込んでしまうと、情報が邪魔で作品目的が果たせません。どうしても簡単な設定でストーリーを動かしたい。
どうするか?
一人称を使えばいいのです!
こちらの導入は、サラリーマン二人が居酒屋で飲んで、タクシーで帰る。これだけです。
これだけですが、主人公の性格は伝わります。
非常に洞察力に優れており、居酒屋亭主の表情や、料理について事細かに説明が入ります。このように細部を見取れる主人公ですが、ここには理由があり、「自身の本音」を徹底的に隠す傾向にあります。
濡れ場シーンでもこれは書かれていて、相手方の告白までじっと待っています。心の声では色々と言っていますが、実際の「行動」として、これは受け身です。
観察力が養われたのは、どんな状況であれ、隠す必要がある性癖を抱えているから……なのかは分かりませんが、隠し事がある人ほど細部をよく見ているという人間味が表現されているようでした。
更に、「細部を見る」というポイントの利点が上手く活用されていて、他の方々のコメントでもありました「飯テロ」、という文言通り、運ばれてくる料理がとても美味しそうに描かれていて、私は食事直後にこれを読んでいたにも関わらず「美味そうだな」と思いました。
「細部を見る」という主人公の性格上の理由と、料理を描写したいという作品上の理由と、もっと言えば「ゲイ」に対する抑圧と、これ一つで全て表現できているのは特筆すべき点です。
これは「一人称」ならではの使い方です。
ちなみに、登場人物の二人は真剣な悩み後相談をしていて、相手が一向に話をしてくれず、重い空気が流れる現場です。相手方は、一切口を開きません。
この状況で「飯」の描写や「あの亭主頑固そうだな」なんて描写は、三人称ではできません。無駄な情報です。
一人称で、主人公の心の声だからこそ可能な描写です。だって、友達の真剣な悩み相談をされている時であれ「あ、この飯うまそう」って思いますものね、私も。三人称でいきなりこの描写をされても「んな事より、話進めよろ」になりますが、一人称なら「分かるわー」になります。
この居酒屋場面、二万字近くありますが、なんの苦も無く読めてしまいます。
同じ事を三人称でやったら二万字持ちません。できたとしても話の停滞で欠伸が混ざってきます。たぶん、ドラマではせいぜい五分で終わるシーンです。
たった二人だけの物語で、場面転換が二回しかなく、その上で主人公の説明ができ、通しで六万字書けてしまうのは、一人称ならでは!
もう一度だけ言わせて下さい。
一人称こそが、小説最大の武器です!
映画脚本や漫画脚本を書いた事がある人でしたら、これは御理解頂けるはずです。他の媒体での一人称は、はっきり言って不可能に近いです。
逆に言えば「メディアミックス(ドラマ化、アニメ化)しなければ小説なんてもう読まれない」と考えている出版社への投稿は、三人称にすると良いかもしれません。(傾向と対策として)
『まとめ』
前作も一人称でしたが……、率直に、キャラクターを走らせるのが上手いです。前回は暴力的なキャラを暴走させて目いっぱい紙面を使われていましたし、今作では三十路サラリーマンの程よい中途半端感(経験はあるけど、あと一歩奥手な部分)などが妙にリアルで、日頃から人間観察にアンテナを立て、できたキャラを頭の中で動かしているのだなぁ、と感心致します。
こうした日々の妄想が無ければ、キャラクターは走ってくれないものですから。
正に小説ならではの主人公で、「キャラクター」回のトップバッターに相応しい主人公でした。
指摘ですが、主人公の言動に若干のブレがありました。推敲でどうとでもなる範囲ではあります。
後、相方役のキャラクターに回想シーンで、主人公への気持ちが伝わる台詞を軽く言わせてあげるか、行動での描写を入れてあげると、よりキャラが立つかと思いました。(居酒屋は仕方が無いとして、回想では喋れるはず)
男性視点での意見を……とのご要望がありましたので、無理にご指摘しますと、あくまで一般的にですが「第二要素」が必要です。
二人のなり染めを聞いて「で、何?」と来るのが男って奴等です。そんな輩の為に第二要素、例えば「相方役」は既に上司の愛人で、主人公を篭絡する為に彼を使った……とか、そんなものでいいです。(上司が相棒の尻を触って、これに喜ぶ相棒を主人公が目撃してしまう、程度の一文)これがあるだけで、なぜか男は締まった気分になります。
でも作風的にディープなBLですので、とってつけた男性向けのオチは不要だと思いますが……。
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