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「マジ万字企画 【キャラクター】編 書評②」
【②】『Moon away the Time』 著:紅屋 楓 様
https://estar.jp/novels/25062590
今回もお世話になります。レギュラーの紅屋さん作品です。毎回質の高い作品で参加頂き、感謝感激であります。
本作は「書き出し特集」選出作品で、その通り書き出しの描写が素晴らしいです。
三作品読ませて頂きましたが、紅屋さんと言えば書き出しの「美」! 今作は「美」が控え目でしたが、個性的なキャラクターと巧みな文章であっという間に読者を引き付けます。
初速のスピード感は一見の価値あり! 金色の名刺を差し出されて、目を向けない人はいないでしょう。
毎度毎度同じ事を言っているようですが、軸のブレない作家性は何度も特筆すべきだと思っています。
ともあれ、今回は「キャラクター」。前回参加作品『暗黒街の天使』も書き足りなかった上、良い比較作品でしたので、こちらも踏まえて考察させて頂きます。
「物語」の発想方法は、極論、二種類しかありません。「キャラクター」が先か、「アイディア」が先か。
少年がいる、少年の外観は女性よりも美しい男性、少年の内観(性格)は純真、少年の生い立ちは裕福な家庭、母が女優、他の家族は……。こうして作り上げられた人物像に見合うストーリーを付けていくのが「キャラクター先行」。(今作)
舞台劇にしたい、主人公は美麗な殺人鬼、彼を引き立たせる為に必要な主人公の性格は「美意識」と「異常性」、テーマ性は「心の在り方」、必要な人物は淑女と幼女、文量は短編……。こうして作り上げられるのが「アイディア先行」。(前回作)
似ているようですが、全然違います。作風や構成にも影響を与えますし、何より、仕上がりに偏りがかかります。
キャラクター先行の場合、「人生」を語る物語が非常に多いです。
アイディア先行は、勿論、アイディアが主軸となり物語が回っていきます。
どちらにも、メリットデメリットが存在します。
キャラクター先行のメリットは、主人公を明確にでき、また感情移入を誘導しやすいので、思う存分背景や主人公を書けます。デメリットはの主人公のキャラが立たなかったら話にならない、人生を書く事が多いのでテンポロスが生まれやすい、などでしょうか。
アイディア先行のメリットは、SFに顕著ですが、舞台装置で物語を動かす事が可能で、その上で、キャラクターを立てて二重構造にし、多角的に構成を作る事ができる点。デメリットは、ワンアイディアが出ないと話になりません。
これだけ見ると「アイディア先行」の方が良さそうに見えますが、そうそう簡単に結論は導かれず、一番の問題点は作家の価値が低くなる傾向にある点でしょう。(長くなるので、いつか書きます)
本編と外伝(劇中劇)という区分はありますが、同じ主人公、同じ作家がこれを書き分けた時、仕上がりのフォルムが顕著に異なると分かりますので、読み比べして頂けると、ご自身(読者)の作品にも生かせるかと思います。
ここからは、本作のキャラクターについてです。
主人公よりも周囲の女性達の方が、キャラが立っているように見えました。
一番立っていたのが「母親」。
というのも、やはりキャラクター立ての最大の要素は「苦難を乗り越える様」にあり、この試練を受けているのは母親だったのです。苦難によって紡がれる台詞がビッタリと合致していたのも母親で、物語全体を支配しているのも彼女でした。これに比べ、主人公の苦難が弱かったと感じます。
次に立っていたのが「クラーレット」で、こちらの苦難は「設定上」既に備わっていて、彼女が居るシーンでは、そちらに視点が向いてしまいます。
主人公とヒロインが抗えば抗う程、この二人が生きてくるシーソーゲームになっていて、更に今作のテーマである「少年の純粋性」と「母親からの脱却」を達成させるとなると、最早、彼女等は超えられない壁に思えました。
かといって、これだけ立ったキャラを消去する分けにもいかないでしょうし、内容的にも「アイディア装置」で一発逆転させるストーリーではないので、難しい問題が発生してしまっているという印象を受けました。
(「名脇役」という言葉が生まれてしまうほど、頻出の難題ではあるのですが)
ここからは深読みですが、前回参加作品の「暗黒街の天使」が本作の後に執筆されていますが、配置の方法を大きく変えられていて、「母親」に準ずる淑女、「クラーレット」に準ずる幼女が再度登場し、主人公の脇を固めています。構成の方法が違うので、また違った見え方になっています。
様々な角度から検討しようとされていて、作者が進化されていく様をまざまざと覗き見た感慨がありました。
『まとめ』
若干苦言のように見えるかもしれませんが、そのつもりは毛頭なく、テーマ性を確保したまま主人公を立てるのにどうすれば良いのか、私もかなり悩みながら読んでいました。この疑義を素通りしてしまうのは「本気」ではないと思い、上げさせていきました。
文章や描写というデザインが確立されているのは既に承知ですので、根幹の議題にも触れてみたかったのです。
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