「マジ万字企画 【BL】編 書評①」

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「マジ万字企画 【BL】編 書評①」

 今回、募集企画にて投稿して頂きました皆様へ、多大なる感謝を申し上げます。  この度、企画として「本気のBL」を読みたい! と募集させて頂きました。この意図について軽く説明させて下さい。  最大の目的については「同性愛」作品を私が書きたいと思っているからです。現代の日本において、最もこのジャンルのシェアを持っているのが間違いなく「BL」です。  でも、「そういえば、BLってちゃんと読んだ事がないなー」  「マリア様がみてる」は全巻読んでいますが、きっと同じ傾向には無いはずで、ある程度、こういう感じだろう、との想定はできるのですが、所詮想定にすぎないので、実際に読ませてもらった方が絶対に良いでしょうし、せっかく「エブリスタ」というコミュニティ機能のある媒体を使っているのですから、生の声も出してみたいと思い企画しました。  せっかく読ませてもらうのなら、ガッツリ考察もしたかったので「本気の人限定」にて募集させて頂いた始末であります。  一文一文解説つけれる程度には読み込みましたが、公共の場で忖度無しという分けにもいかないので、もっと詳細に意見欲しい方はコメント下さい。  能書きはこれくらいにして、本題に入ります。 「これは言い過ぎ」みたいな文がありましたらお知らせ下さい。即座に消します。  あくまで主観的感想なので、「いや、そんな事ないけど」と思われても恩赦下さいませ。  (読んだ順番に並べています) 【①】 『Et In Arcadia Ego』 著:紅屋 楓 様 https://estar.jp/novels/25562663    一番初めに読ませて頂きましたが、まさに「BL小説」とう文面から連想していた、ど真ん中の作品でした。  とても流麗な文章で、書き慣れてらっしゃる感が溢れ出していました。またプロットがしっかりしていて、冒頭に主要アクションを見せ、その後にそこまでの経緯を書く、所謂「ハリウッド型」でがっちり構成されていて、(私のように)プロット崩壊もなく、とても信頼できる作家さんだと感じました。  というか、構成の組み立てや 「この文量だと、ここで一文を入れて締める!」  というタイミングやセンスが私と似ている気がして、「分かる分かる、ここだよね」と勝手に共感していました。テンポが合うのか、私的にはめちゃくちゃ読みやすかったです。  一文に入れる形容詞の量も多く、台詞に頼らず地の文で魅せる! という熱い意志が伝わってきます。  アクションにて物語を動かしている点も、凄く好感が持てました。  また、過度に煌びやかな表現で始まる冒頭ですが、これ自体が伏線になっていて、映像的な強弱で「時間経過」を表現していらっしゃるようで、背景描写の大切さが身に沁みました。  良い点がとても多かったのですが、幾つかご指摘を……。  文章力が高いので、文章で説得しようとしている箇所が散見されました。特にそれが「心の変化」についての言及が多く、キャラクターが急に変貌している印象がありました。  風景の表現が非常に多く、これ自体は素晴らしいのですが、そこにサラっと心情変化の文章が入ってくると埋没してしまい、「あれ? なぜこうなった?」ページを戻り、「あ、この一文か」となる事が数度ありました。  ※ 只、こちらについてですが、読者ターゲットが「女性」なのか「男性」なのかで変わるとも思っています。  男性だと「ざっくり文章を流し、目立つ箇所を抽出して頭の中でまとめる」読み方をしますが、女性は「一文一文から背景を作る」読み方をされているかと(勝手に)想定しています。  この場合、短文での心情変化の差し込みも有りなのかな? と考えさせられました。  勿論「BL」作品は女性ターゲットだと思われますので、むしろ私としては凄く新鮮だったりもしました。  後、一つ、これだけ……。章立て無しでキャラクターの視点変更する場合、もう少し前置きを多めに下さい。  『まとめ』  文章が卓越で、「見た、来た、行った」の徹底回避が成されている点からも高い筆力を感じました。  少年「リノ」の生き生きとした純粋性が上手く表現されていて、我が子を見ているような感慨に耽ました。逆に、生き生きしすぎていて「闇」のギャップがもうちょっと欲しいかな、とも感じた次第です。 (追記 書評ポイントの直ぐ後のシーンから、「闇」が書かれていましたね......。お前に指摘されるまでもない! と言われているようでした 笑)  一番初めに読ませていただき、正直、いきなりこの質で読ませて頂けるとは想定していませんでした。ガチ感がビシビシ伝わりました。 【②】 『二度とない関係』 著:蒼井 祐希(前_一松) 様 https://estar.jp/novels/24798408  二万字と言わず、全て読みました。  まだお若い作者かな? 勝手にそう読み解きましたが、いやはや、恐ろしい。直球を放られると感動してしまいます。(歳かな……)  内容的には「BL」というより「LGBT」に寄っています。  ゲイbarのママの初恋青春物語。  文章、構成、設定についてはバリエーションが欲しいです。  只なんと言いますか……書いて読んで経験すれば、次第に文章は洗練はされていくのですが、意外性を出すのにえらく苦労を強いられるハメにもなります。洗練された物語はこの世界に何千何万と毎年量産されていくわけで、そこから抜け出すには結局「意外性」を求めるしかなくなるのかなと……。  意外性、の一番の素材は、感性に他なりません。  この作品には、私の知らない感性が何カ所もありました。 「たった何カ所?」  いやいや、一作で何十カ所もある作家なんか、私は知りません。一か所も無かった作家は腐るほど知っています。(私も含め……)  この数か所を読みたくて、どんどんページが進み、結局最後まで読んだのです。  コメントにも書かせて頂きましたが、私の発想では一生出てこないであろう感性が度々出てきます。  携帯の名前登録は、心底シビれました。「こんなの、絶対書けない!」と声に出ました。 「仕切り直し!」は、私では一生涯書けないです。衝撃すぎたので、どこかでパクるかもしれません。  時たま入ってくるキスの擬音も可愛くて仕様が無いですし、肌触りのある「高校生」を追体験させられる感動もありました。  素晴らしい直球に目を奪われて、見送り三振してしまうバッターの気持ちです。(いきなりジジ臭くてすいません……) 『まとめ』  素晴らしい感性があり、オジサン世代の私は感動できます。  でもきっと、これは作者の本意には沿っていないでしょう。同世代の評価を受けるには、どうしても研鑽が必要になります。  が、この可愛らしく瑞々しい感性も失って欲しくないというのが私の本音です。  この辺りは永遠の葛藤ですね。研鑽と経験で文章自体はアップデートされますが、初々しさも同時に変化してしまいます。  この時、これを書き残せたとうのが、一番の財産なのかもしれません。  兎に角、可愛かったです。 【③】 『蝶たちの戦争』 著:鷹取 はるな 様  https://estar.jp/novels/25621710  まず、「オメガバース」という設定を始めて知りました。妊娠の概念を超SFで解決してしまうファンタジー性、三つ巴の相性が設定されている為、社会学、民俗学にも波及できそうな論理性、この二つがあればきっとミステリィにもできるでしょうね。単に「BL」という枠に留まらず、男性読者にも受け入れられる物語が書けそうで、未来性を感じる良設定ですね。  さて、こちらの作品、とにかく主人公の野生感に目を奪われました。抑圧される環境の中で、いつでも牙を剥こうとギラつく言動が、紙面の枠から存分にはみ出しています。  こうした暴力的なキャラクターって、通常はサポートキャラに据えられている事が多いですよね。心情変化が書き辛い上に、主人公主動で物語を転がすのが難しいので、別のサポートキャラクターの配置が必要になり、登場人物が増加しています。  これらの難点を上手く回避し、十二分に主人公の魅力を引き出す事に成功していたと思います。  短編の性質も上手く噛み合わさっていて、「このキャラクターをガッツリ喋らせたいんだ!」という熱い意気込みが伝わってきます。  設定がしっかり作られているので、主人公の抑圧への不満も共感できるものがあり、「背中を押したくなる苛烈なキャラクター」という魅力がありました。  只、逆に、設定渋滞の問題は抱えているようでした。「オメガバース」という設定の上に世界観説明が乗っかってきて、またこの状況下での主人公の立場を書かなければならない点も踏まえると、どうしても設定説明の文量が増えてしまい、短編という制限上、アクションではなくナレーションでの説明になってしまっていました。  この辺り、特に序盤の情報整理で、もっと読みやすく、もっと主人公を暴れさせる事ができるのでは? と、個人的には思いました。 『まとめ』  主人公の出来が良く、私はこうしたキャラクターを主人公にした事が無いので、斬新かつ新鮮でした。いつか自分でも書いてみたいなー、と思わせてくれる魅力があり、色々と諸設定を考えてしまう程でした。 「オメガバース」というジャンルも知ることができ、たいへん有意義でした。 (②へ続く)
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