マジ万字企画【23年12月16日】

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マジ万字企画【23年12月16日】

今回は神蔵さんの作品です。 まったり話す程度にしようかと思いましたが、直しがいのある作品でしたので、がっつり指摘を入れてみます。 指摘とはいえ、概ね私も皆さんも同じ様に直していく点ばかりなので、参考になるはずです。 指摘というか「直し」です。 【ティオとエレンの事件簿~season.1~】  著:神蔵眞吹 様 https://estar.jp/novels/24987952 あらすじ (連作なので、各話ごとに発生する事件が異なります。今回は1,2話を読んでいますが、1話で沢山書いてしまったので、2話目はコミュの方で感想述べます) 1話目 主人公は、元暗殺機関に育てられたティオゲネスと、ごく一般的な少女エレン。 二人は偶然、街で血だらけで絶命寸前の女性から、USBのメモリを渡され「諜報機関へ渡してくれ」と託されてしまいます。 すると、その諜報機関や警察やマフィアから追われる事になる。 (オチ)このUSBに入っていた映像は、諜報機関の人間がマフィアとつるんで強姦をしている映像で、流出をおそれた諜報機関に二人は追われたのだった。 まず良かった点で、前述「直しがいのある」とした部分ですが、文章に歪(ひずみ)が無くて読みやすかったです。 「歪」というのは、作者が自身の世界観や設定への迷いがある時に出る事が多いです。自分で制御しきれていないのでしょう。強引に台詞でオチをつけようとしたり、さっき言っていた事と真逆の事を言い出したり……、読んでいると「ん? どういう事?」となる作品は非情に多いです。 それが無く、使い慣れた様子で書かれていたのでとても良いです。 正直、ここができてないと「直し以前の問題」なので、及第点ではあります。 とはいえ、私が下読みなら一次で落とすので、なぜかを説明します。 あと、エレンのキャラクターが良かったです。なぜ良かったのかも後述します。 凄く良い手触りだったので、ちゃんと直したいところです。もっと掘っていけば、もっとよくなりそうです。 直しの前に、少々口出しします。 〇ティオゲネスのキャラクター これについては、この作品だから……ではなく、他の作品も読んでいる私からの提案になります。 うすうす言われると気付いているはずですが、いつものキャラクターですよね……、この子。何回見たか分かりません。さすがに他と似通ったキャラすぎるので、もと大胆にキャラクターを作ってチャレンジして欲しいです。 因みに、以前「ストーリーからキャラ設定する」と話した事がありますが、この補足説明をします。 その前に……、 〇逃亡劇の性質 今回のように濡れ衣で警察に追われるパターンの内容は、テンプレで沢山あります。 「逃亡者」が超有名です。観てない方はドラマ版は長いので、ハリソン・フォードの映画版だけでもご視聴下さい。 逃亡劇は私も大好物で、今まで何度か書きましたし、今後も書く予定があります。 この逃亡劇で重要なのは、「どうなればゴールか?」「どうなれば失敗なのか?」これを最序盤に明確にすることです。 逃亡劇ではなくともプロット的に必須要項で、ラブストーリーだろうが、時代劇だろうが「目的」は冒頭に必要なのですが、逃亡劇だともっと重要。 というのも、本作(神蔵さん作品)に照らし合わせると、「USBとか捨てちゃえばいいじゃん」って率直に思いました。かつ「別に警察に捕まってもいいじゃん。というか、最後捕まってる上になんのお咎めもないじゃん」 ここですね。 因みに「逃亡者」の「ゴール」は真犯人を探し出す事。警察に捕まった場合(失敗した場合)は「死刑」です。これが、この逃亡ゲームのルールです。超単純ですが、はっきりと説明されています。 これがはっきり読者に理解されていないとハラハラドキドキにならず、シリアス感も出ません。追われている緊迫感も出ないので、逃亡する場合は必須です。 今回のように「追われたから逃げる」では辛いです。捕まったら死刑になるくらいの条件下で、捕まってはいけない絶対的な理由があると話の面白さが倍は変ります。 で、後で構成の詳細解説しますが、今回のオチ「実は諜報機関とマフィアがグルで悪さをしてた」くらいのオチであれば、冒頭でバラして良いです。 そのせいで国とマフィアと国全体から追われる! くらいで丁度良いです。その上でどうするかがストーリーになります。 かつ、主人公が簡単に逃げられそうな設定は避けた方が良いです。 例えば「主人公が無敵の暗殺者」とか。 そこらのマフィアを簡単に倒せる人だと、簡単に逃げれますよね? それでは緊迫感が出ないんです。 上述、エレンのキャラクターが良かったと述べましたが、ここなんです。この少女はごくごく普通で、無能ですが、追われる身だとこれくらいが良いです。応援したくなります。 無敵の暗殺者なんて、逃げれて当然なんです。強キャラを主人公にしてしまうと、ピンチを作るのがめっちゃ大変になります。 事実、本作ではピンチ皆無です。これだけ強い主人公をピンチにするのは大変ですよ。 なので私なら「簡単に捕まってしまいそうな主人公」をまずは考えます。 とはいえ、完全にお馬鹿だと扱い辛いので「司法試験を十年受けてやっと合格したが、能力がなくてスーツもろくに買えない貧乏暮らしの弁護士」くらいですかね。 因みに「逃亡者」の主人公は医者です。そして、医者であるが為にピンチに陥るという設定です。(人が好過ぎて病を患った人を助けてしまう→そのせいで警察に嗅ぎつけられてピンチになる) これが「ストーリーからキャラを考える」です。 「私はこれが好き」ではなく、ストーリー上、面白くできそうなキャラを作るのもやり方の一つです。 こういう「ちゃんとピンチを作れていない」とか「説明の不備」とかは、プロットが弱いと言われる部分に直結します。 直しに行きたいのですが、その前に細かいところを突きます。 〇過去の説明が多い ティオゲネスの過去の説明が多いので、もうちょい減らして良いです。この話のメインストーリーは「逃亡」なので、そこに関係の無い話はブレーキになります。 特に逃亡劇はスピード感が欲しいので、過去の経歴とかは説明しなくても良いかと。なんの説明もなく拳銃を振り回す14歳で良いです。その理由は、その理由に関わるエピソードで話せばOK。 同じ理由で、冒頭にある「忘れるな……」というエピソードも今回に関係ないので不要。 今回の軸は逃亡劇なので、兎に角、軸を光らせる事が最優先です。余計な設定説明は省いて良いと思います。 〇ティオゲネスとエレンの視点移動 はい、いつもやつです(笑) 序盤にティオゲネスとエレンの視点がちょろちょろ変わりますが、後半はティオゲネス一本ですし、実際、ティオゲネス一本で良いです。序盤にころころ移動したメリットを感じませんでした。(デメリットは多々感じました) 〇ピンチの演出 後半にピンチが2つ作ってありますが、どちらも目くらましをした隙にどうこうする、という解決方法で、かつ短い時間で2度も行うので「んん……」となりました。 正直、これだと序盤の小さなピンチで使えるかどうかのネタではないでしょうか? 〇ドラマ不足 これが一番重要かもしれないです。 人間ドラマが見当たりません。設定とかは色々考えてあって良いのですが、肝心かなめは、やっぱり人間ドラマ! その辺りがほぼ抜けているので、何か作ってください。 中盤の一部に、ティオゲネスがエレンを思いやる台詞がありましたが、そういうのです。 「あいつはポンコツだけど守ってやりたい」みたいな、ああいうのを、全体のストーリーラインの中で幾つか欲しいです。 読者はそこで感動します。 連作の場合、この話ならではのオリジナルドラマが必要です。 これは【絶対】に必須です。 これ無しではどこでも通らないので、もっと沢山考えてみてください。 ――――――――――――――――― 【いきなり始まるプロット講座】  さて、直しですが、骨組みだけ説明します。 なぜ私なら一次で落とすのかというと、↓これくらいのプロット密度が欲しいからです。 1 『事件発生 (起)』 血まみれの女からUSBを受け取る。警察がやってくると連行されるので、とりあえず付いていく。すると、警察署になぜかマフィアが居て、自分達を殺す算段をしている。 ここに居ると死ぬと悟り、逃亡開始! 2 『序盤の目的、ルール説明(ターニングポイント1)』  USBの内容を観ると「警察とマフィアの悪さの証拠」だと分かる。 →どうすれば助かるのかを知る。 →その為にはどうすればよいのかが分かる。 3 『逃亡劇 (承 お楽しみゾーン)』 逃げたり、マフィアと戦ったり。 4 『新事実の発覚(ミッドポイント)』 実は、マフィアのボスと警察のボスが一緒だった!(例です。元ネタは「LAコンフィデンシャル」) 警察のボスとUSBを取引して、身柄の安全を迫ろうと考える。 5 『逃亡劇パート2 (承 お楽しみゾーンその2)』 警察のボスにはめられ、更なるピンチへ! 馴染みの警察からも追われ、事実を言っても聞いてくれず、馴染みの警察とも対決。 6 『更に新事実が発覚 (ターニングポイント2)』 血まみれの女は、実は警察ボスの愛人だった! 警察にもどこにも逃げ込む場所がない! なぜ、自分が血まみれ女のUSBを受け取るという罠にかかったのか! 7 『更に更に新事実!(転)』 実は、警察ボスはショタコンで、美少年の主人公への異常性癖を持っていた。それに反感を持った愛人の女が組織の情報を盗み、命をかけて主人公へ濡れ衣を着せようとした愛憎劇だった。 8 『迫られる選択(冒頭に絡む転)』 警察ボスに、お前が愛人になれば許してやると言われる主人公。→警察ボスが死んだ愛人の反抗を見過ごしていたのは、それを利用して主人公とこの場を作る為。 どうする主人公! ―――― なんか、亜衣さんが書きそうなBLっぽくなりましたが(笑) ボスの愛人とかそういうのは適当に今つけただけなので無視してください。 あと、このプロットだと主人公が受動的なので、たぶん二次選考以降は通らないです。 コンクール系だと、「全ての罪を主人公が背負っています」くらいじゃないと上に残らないです。 それを覆す方法は……文末に。。 重要なのは『 』の中。起承転結で書いていますが、実質3幕構成です。 「主人公が美少年」の部分に意味を持たせるとこうなりました。(設定の意味付け) 冒頭の血まみれの女性にドラマ性を着けると、こうなりました。(ドラマ性) で、本作と比べると、本作は「1と3」で終わっています。二転三転していないのと、ドラマが無いのと、転がありません。 「二転三転していない? それでもいいじゃん!」って思う人も大勢いますが……、んん、でも、それでいけるのは天才だけなので、天才を目指す事になっちゃいます。 ↑のプロットは、「最低限、ここまでやって欲しい」なので、やっぱりもうちょっと展開は考えて欲しいです。 因みに、過去の私のミッドポイントの解説で ・「ミッドポイントは最重要な感情を書け!」 と ・「ミッドポイントで最重要の場面転換を書け!」 と、二種類説明しているはずです。たぶん。 これ、どっちでも良いです。 厳密には ・「ミッドポイントは最重要な感情を書け!」 だと、【起承転結】になります。が、まぁ、細かいことなのでどうでもいいです。大学教授クラスじゃないと知らないです(笑) 結果も変わらないですし、どっちでも正解です。 ハリウッドとかの三幕構成ガチ勢は、「感情と場面」どっちも含めた素晴らしい転換点(ミッドポイント)を作ってきます。 さて、こういうプロットはいくつか万字で述べましたが、実は全部中身(骨組)は同じで、側だけ違うだけです。 で、ここからは余談になります。 先日、コミュの方で「賞とった!」的なコメントをしましたが、その後日譚になります。 授賞式で映画監督や有名なプロデューサーさんと話していると、求められているのは「情熱」なんだと思いました。 こういうプロット講座を書く度に焦燥される方がいるのですが、最重要はプロットじゃないです。 (あくまでプロットは基本なので、勉強はしてくださいね。やらなくて良い! ではないです) 以前、わかさんへのコメントだと思いますが「どーんと来るものが必要」と言いましたが、言っておきながら実は良く分かっていなかったのです。 でもやっぱり、それって情熱なんですよね。 「ここだけは、世界中の誰よりも素晴らしく書き上げる!」 この執念で勝った人が、勝ちなんだと思います。 実際に、プロの人達が「あの作品のここが面白かった。だから採用した」みたいなシーンって、理屈抜きの感情爆発しているシーンなんですよ。 プロットは、あくまでその補助であり、どうすればこのシーンが一番良く見えるか? の手助けだと思うので、まずは「ここだけはどうしても書きたかったんだ」というシーンが、誰の目から見ても明らかな場面を一つ作って欲しいです。
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