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何が間違ってこうなった
何が間違ってこうなった。
大学生活にも慣れ、アルバイトの掛け持ちに慣れてきた今日。
独り暮らしのアパートに帰ると、見知らぬ着流しの男がいた。
見た目はそれはもう怪しい。気持ちとしては今すぐ警察に通報したいくらいだ。
顔に狐のお面
高くはなさそうな着物に襟元からはハイネックの黒のTシャツ
足元は下駄
家の中にこんな姿の男がいれば、君もとりあえず一度扉を閉めるだろう。
安心しろ、俺--清水 和佐もそうした。
「帰ってきたん? あんたが家主か?」
お面男は俺を見てはっきりそう言った。京都に来てからよく聞く関西弁。最近はようやく慣れてきたのか、聞き取れるようにもなってきた。
「どちらさまでしょうか?」
「わしはあんたの神様や」
にやりと多分笑いながらお面男は言った。 俺は言っている意味がわからずに、言葉だけが耳を通り抜けていく。
「喜べ、あんたはわしに選ばれた」
「えっと、喜べません」
思わず俺は正直な気持ちを自称神様と名乗る男に告げる。ガクッと男は膝をついて落ち込んだ。
「ここまで正直に言われたのははじめてや。なんで喜んでくれへん?」
「あなたが本当に神様かわからないし。本当だとしたら怖いだけだから」
部屋に入り、玄関の扉を閉める。もしかしたら俺しか見えていないかもしれない。
そうなるとただの独り言をいう危ない学生に見える。それだけは避けたかった。
「普通、あんたの神様や言われたら、お願い事を言わへん?」
「怪しい宗教ならお断りです。どうやって入ったか知りませんけど出てってください」
「怪しい宗教扱いしな!」
「ところで、お名前はなんて言うんですか?」
やっと自分に興味を持ってくれたのが嬉しいのか、自称神様は懐に入れていた扇子を取り出し、口許にあてる。
「カズミ、と言います。これからよろしゅう、和佐くん」
「なんで、俺の名前を」
「神様は何でも知ってるさかいね」
にやにやと笑いながら言う自称神様のカズミ。
「わしに選ばれたあんたに手伝うて貰いたいことある」
京都に来て約2ヶ月。
何が間違ってこうなった。
それは俺にもわからないことだった。
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