スグルとサエコと廃墟と宝物の夏

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 目を移すと、部屋の前にきらきら光るものが落ちている。  スグルは思わず駆け寄った。 「なんだろう」  一瞬、大きな宝石に見えて、スグルはどきっとした。  ダイヤ型の透明な玉だ。  手前の部屋に吊ってあったシャンデリアから落ちたものらしい。  すこしがっかりしながら、スグルは玉を拾い上げた。  明るい方に透かして見る。  部屋の入り口が二重、三重に見える。  スグルは、だまってそのままガラス玉を布製の手さげバッグに入れた。 「あ、またそうやってものを盗るの」  こういうことには反応するサエコに、スグルはときどきイラだつ。 「ここに探検に来たしるしとして、持って行くんだ」  語気荒く答えて、そのまま隣の部屋に移った。  天井が斜めに傾斜して、天窓から光が射している。  部屋の中央には、プラスチックの大きな衣装箱が置かれている。  閉じたままの水色のフタに手をかけると、プラスチックが古くなっていたのか、バリンと割れてしまった。 「見て。箱の中」  サエコにうながされて、スグルはおそるおそるのぞきこんだ。  いろいろな種類の絵筆が散乱し、その脇に水彩絵の具セットの紙箱。  そして、何十枚もの黄ばんだスケッチが収められている。  バラにスイセンにラン、どれも草花の絵だ。
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