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入道雲が西の方にむくむくと姿を現してきた。
スグルは、もう今は動かない踏切から、砂利を敷いた線路に入りこんで、灼けたレールの上にひょいと乗った。
左右の腕を横に伸ばしてバランスを取りながら、赤く錆びた鉄を踏む。靴底を通して、足の裏に熱が伝わる。
砂利の上に落ちていた木の棒切れを見つけ、拾い上げて振り回した。
トンボの羽音が耳元で聞こえてきて、追い払おうとさらに激しく振る。
「スグル、危ない。落ちて転ぶよ」
真後ろからサエコの声がして、スグルは思わず振り向いた。
……でも、サエコはいつもスグルの後ろに回り込んでしまうので、どうしても顔が見えない。
「落ちるわけないよ、おっと」
スグルは、おどけて片足をあげてバランスをくずしてみせると、そのまま平均台の上を歩くようにして、レールの上をひょいひょい進む。
ぽつりとサエコがもらす。
「この辺も、すっかり誰もいなくなったね」
スグルは、また始まった、と思って何も言わずに聞いていた。
「駅ビルもショッピングモールも目抜き通りも、人も車も消えて、電車もいつの間にか動かなくなって……」
サエコは寂しそうに話すけれど、スグルはちっともそうは思わない。
誰もいない方が、返って好き勝手に色々なことができる。
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