スグルとサエコと廃墟と宝物の夏

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 リビングルームの白木の床にはラグが敷きつめられていた。もとは純白だったらしいラグは黄ばんでしまい、その上に灰色の古びたソファセットがおかれている。革のあちこちに黒いひびが入り、剥がれて落ちている。  ガラス張りのテーブルも、天台が割れてしまい、浮彫が施された骨組みしか残っていない。  向こうのダイニングルームの中央には、スグルひとりぐらいは入れそうな、大きなアルミの流し台がしつらえられていて、天井からその流し台まで、銀色の換気扇が伸びている。  高級そうな食器や、用途がわからない奇妙な形の調理器具……。  皆、シンクの周りに無造作に放り出されたままだ。 「こんなに広いうちは、はじめてかも」  スグルのつぶやきに、サエコが言葉を返す。 「あっちにも部屋があるみたい」  うながされてダイニングの奥にある部屋にそろそろと進む。  ドアはなく、いたんだ畳の床の上に、うす汚れたタオルやこわれたハンガーが、ばらまいたかのように散らばっている。  壁には大きな本棚があり、同じような装丁の本が何十冊も並ぶ。  深緑色の背表紙に打たれた金文字が、暗がりの中できらきら輝く。 「ふうん、きれいな本」  サエコがつぶやく。 「この家の人は本が好きだったのかな」  スグルはそうたずねながら、本棚から一冊取り出した。  ところが、サエコは今度は何も答えない。  まったく気まぐれだ。
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