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「絵を描くのが趣味だったんだ、ここの人」
サエコがつぶやく。
スグルはうなずいて、立ち去ろうとした。
「待って、このままでいいの?」
もうここには帰ってこないだろう。
どこかへ引っ越していったのか、病院か介護施設に入ったのか、それとも、もう亡くなったか……。
どっちにしても、放っておいていいはずだ。
でも……。
「しかたないな」
スグルは引き返して、こわれたフタを箱にのせた。
「これでいいだろ?」
スグルはサエコに呼びかけた。
また答えは返ってこない。
ムッとして、そのまま部屋から出た。
ふたたび、夏の太陽が直撃する道路まで戻ると、スグルはだっと駆けだした。
今日はさいさきがいい。次の宝物を見つけに行こう。
その想いばかりが頭の中を占めていた。
どこにしようか……。
そうだ、ショッピングモールだ。
「さっきの絵、キレイだったね。センサイな感じっていうのかなあ」
突然、サエコが話しかけてきた。
全力で駆けているスグルに、後ろを振り向く余裕はない。
それでも、さっきの絵を思い出して、つぶやくように答えた。
「バラの絵が一番よかったかな」
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