スグルとサエコと廃墟と宝物の夏

7/24
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
「絵を描くのが趣味だったんだ、ここの人」  サエコがつぶやく。  スグルはうなずいて、立ち去ろうとした。 「待って、このままでいいの?」  もうここには帰ってこないだろう。  どこかへ引っ越していったのか、病院か介護施設に入ったのか、それとも、もう亡くなったか……。  どっちにしても、放っておいていいはずだ。  でも……。 「しかたないな」  スグルは引き返して、こわれたフタを箱にのせた。 「これでいいだろ?」  スグルはサエコに呼びかけた。  また答えは返ってこない。  ムッとして、そのまま部屋から出た。  ふたたび、夏の太陽が直撃する道路まで戻ると、スグルはだっと駆けだした。  今日はさいさきがいい。次の宝物を見つけに行こう。  その想いばかりが頭の中を占めていた。  どこにしようか……。  そうだ、ショッピングモールだ。 「さっきの絵、キレイだったね。センサイな感じっていうのかなあ」  突然、サエコが話しかけてきた。  全力で駆けているスグルに、後ろを振り向く余裕はない。  それでも、さっきの絵を思い出して、つぶやくように答えた。 「バラの絵が一番よかったかな」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!