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理由は知らないが、私が全ての事情を知っている、と猫女は決めつけていた。
「身代わりってなんのことだ。誰が、誰の代わりをするのか言ってくれ」
猫女は返事をしない。
振り向きもせず、黒く艶やかな敷石が並べられた道を歩いて行く。
周囲の景色は相変わらず漆黒の闇だった。
歩道の両側も同様で、そこに地面があるのか、それとも奈落になっているのかさえ分からない。
私と彼女の裸身、黒猫の頭部、敷き詰められた黒曜石などは見えているのに。
落下中は気にも留めなかったが、猫女の若く扇情的な肉体を見て、私もまた素っ裸であると気がついた。
神々しいばかりの肉体を間近で見ると、胸の奥深くから畏敬の念が湧いてくる。
日ごろ、アスレチック・ジムに行って体を鍛えておいてよかった。
無様な太鼓腹でも晒したら、きっと罰が当たったことだろう。
「来てくれた、間に来てくれた! やっと身代わりが来た!」
猫女が急に滑舌よく喋り始めたと思ったら、目の前にいたのは、あの女だった。
全裸で、25年前と変わらぬ男好きする顔貌で、黒猫を抱いている。
突然、暗闇が晴れ、音が生じ、血の匂いがした。
私はいつの間にか女との隔たりを、一息に詰めていたのだ。
そうして辿り着いた「彼女の場所」は、凄絶な地獄だった。
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