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あとは見るも無残な黒猫の食事タイムである。
私は思わず目を逸らした。
「君に聞きたいんだが……、なぜ私が選ばれたのだろう」
女は腰に手を当てて無感動の様子で男と猫を見ていたが、私の声に目を丸くして、こちらを顧みた。
「誰も選んでない。あなたが聞いているのが、『なぜ、ここにいるのか?』ということなら。『あの夜、声をかけたのは何故?』という質問なら、好みの男性だったからと答えるけど」
20歳にしては妖艶とも言える笑みを浮かべつつも、女の頬はわずかに赤らんだ。
怖いの? と聞かれたので、自分がああなるのはイヤだな、とだけ答えた。
「『身代わり』について聞きたいんだが。なんで私が身代わりに選ばれたのか疑問に思ったんだ」
女は答えない。
「あんたは勘違いをしている」
突然現れた、スーツ姿の公務員っぽい雰囲気の男性が声を掛けてきた。
私の感覚はかなり麻痺しているはずだが、それでも急な出現には驚かされた。
勘違いとは何かを尋ねると、スーツを着た男性は明瞭に答えた。
「あんたはここを地獄だと思っているだろう。それが1つ目の勘違いだ」
「女に誘われて罠に落ちる地獄が、あるというじゃないか」
男性は鼻で笑った。
「専門家が、『違う』と言っているのだから聞きたまえ」
鷹揚な態度から言って、男は地獄だか「似て非なるもの」だかの専門家らしい。
「もう1つの勘違いは、『あんたは身代わりではない』という答えで、納得してもらうしかない」
顎に手を当てて、そうだな、と呟いた。
「退屈な話を聞くことになるぜ。あんたがそれでいいのなら話をするが」
私はたいして期待もせず、彼の話を聞くことにした。
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