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私が地獄について尋ねると、「生者に話すことは出来ぬ」と、突っぱねられた。
「ここは地獄でも、その出先機関でもない。あの男に対する恨みを晴らす、それだけの目的で女と雌猫が作った私刑場だ」
今、我々がいる空間はあの世とこの世の「間」であり、「辺獄」とも呼ばれる空間であるということだった。
私がスーツを着た男性に説明を受けている間にも、25年前に女を殺した犯人は体長2メートル近い黒猫に嬲られ、おもちゃにされて、ただひたすらに悲鳴を上げていた。
「なぜ黒猫がいる? やはりあいつの手にかかったのか」
男性は返事を期待していなかった問いに、「そのとおり」と律儀に答えた。
「あの娘の魂はあの世へ行かず、黒猫とともにこの「間」に留まった。別に珍しいことじゃないが、25年に亘って私的な拷問を加えながらってのは、常軌を逸しているかもしれん」
「犯人の男は、無期懲役でまだ死んでいないはずだが、なぜここにいるんだ」
「それについては地獄側が進んで協力させてもらっている。あんたの言うとおり、服役囚がある日突然消えたりしたら大変な騒ぎになる。あいつそっくりの人造人間を提供させてもらったよ。刑務所にいるのは偽物、魂のない人形だ」
これが地獄ではなく、女と黒猫の怨念が作り出した私刑なのだとしたら、恐ろしいを通り越しておぞましい罰を受けていると言えよう。
次第に明かされる「身代わり地獄」の恐ろしさ。
私は背筋が凍る思いだった。
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