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私はひと息ついて、本当に聞きたかったことを尋ねた。
「私が知りたいのは、『身代わり』が誰で、何の為かということなんだが」
「あんたは身代わりを連れてきたんだ。あんたが4半世紀かけて創り上げた、そこにいる女を」
「私が創った? 一体なんの身代わりだ」
「あんたが愛した女の……だろうな。俺にはよく分からんが、25年も思い続ければ、魂のない器・肉体くらいは出来るものらしいな」
魂のない器、その言葉は聞こえているはずだが、女は黒猫を抱いたまま犯人が拷問される様子をじっと観察している。
私はおしゃべり好きの専門家に、もう一度、念押しをする必要があると感じた。
「何のために身代わりがいるんだ。邪悪な目的の為だったりはしないだろうな」
「まさか。俺の知る限り、あんたが連れてきた『女』のような存在は、創った本人しか扱えないものだ。どう使うかは、あんた次第だよ」
彼の気怠い口調は、これで最後だ、と宣言しているようだった。
「彼女の魂は、黒猫とともにこの『間』に留まって、あいつを引き込んでいた……」
「そう言ったはずだが? 聞き漏らしたのか」
スーツを着た地獄の専門家はそんなこと、ひと言も言っていないはずだ。
どうやら彼はけっこう、お人好しのようだ。
「礼を言わせてもらうよ。いろいろと教えてくれてありがとう」
「その筋合いは無い。もし俺に感謝しているのなら、将来、けっして地獄へ来るようなことをするな」
私に背中を向け、「それが恩返しってやつだ」と呟くと、男は虚空へ消えた。
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