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いちど押し返されたはずの手が、今は女の中へずぶずぶと沈んでいく。
実際に足を踏み入れたことはないが、底なし沼、とはこういうものだろう。
右手がゆっくり着実に、奥へ引き込まれていく。
私は手掛かりを求めて、無言の戦いを続けた。
右手が肘まで入ると、身体のバランスを保つのが難しくなる。
伸ばした左手を床につこうとした矢先、女の両手が動いた。
同時に目が開く。
猫のそれに、似ていた。
すばやく風を切る両手に、左手首を掴まれた。
「こっちもお願い」
抗うことのできぬ強い力で、私の手は右の乳房へと誘われた。
右腕と同じように、左腕も女の中へと沈み始める。
いくら踏ん張っても、沈んでいく一方だ。
ついに私の顔が、女の顔の目と鼻の先まで近づいた。
女は私に抱きついてきて、口づけをした。
終わると床に背をつける。
口を横に広げ、「にっ」と笑った。
両端がゆっくりと上がり、より猫らしい表情になる。
瞬間、私は頭から女の中へ落ちた。
そのあとは、延々と暗い縦穴を落下していった。
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