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HAZAMA
落ちていく途中で考えた。
私はこの後、どれほど落ちて行くのだろう。
部屋に現れた女は、死せる者だ。
死者が入口である以上、私が落ち行く先は冥界であるに違いない。
あとどれだけ経てば、私の身体は冷たく硬い冥界の床に打ち付けられるのだろうか。
周囲は漆黒の闇で、一寸先すらも見えない。
入り口の方を振り返る。
はるか後方、漆黒の天蓋に、光射し込む長方形に切り取られた窓があった。
おそらく窓の向こうは、マンションのリビングだ。
「入り口は、あのスーツケースか」
縁は深いが名も知らぬ女が、不思議な出来事の鍵になっているらしい。
事実ならば、あの不似合いに大きなスーツケースが冥界への入り口になっていても、驚くに値しない。
なぜなら彼女は間違いなくあの場所から、死者の世界へと旅立ったはずだからだ。
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