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誰かに呼ばれたような気がして、私は頭をめぐらせた。
何も無いと思っていた右側の暗闇に、四角く光る窓が開いている。
枠に寄りかかるように立っている人影は、女性だ。
思わず声を発すると、相手もこちらに気づいた。
「見つかった! 見つかった? こっちおいで」
女はこちらに背を向けて逃げ出した。
この歳になって、20歳そこそこの女と鬼ごっこをするつもりなどない。
だが私の希望とは関係なく、不思議なことはすでに起きていたようだ。
「待ってくれ! 聞きたいことがある」
声をかけると同時に、一歩前へ歩みだした。
四角く切り出された石で舗装された歩道に、足をついて。
いつの間に落下が止まって、両足で地面に立っていたのだろう。
何故を問うのなら、25年前の夏の日に起きた出会いから始まり、部屋に女が横たわっていたこと、彼女に触れたら闇の中に落ちたこと、等々、不思議でとても受け入れ難いことばかりが起きている。
とくに夏も終わり近くの今宵は、ついに世界が発狂状態になってしまったと思われる出来事の連続だ。
どうやら正常ではなくなってきているのは、私のようだ。
この状況下でさえ、強い恐怖心で動けなくなったり、何が起きているのか理解できるまで行動を控える、という気持ちにならない。
今、最もしたいことは何か?
あの女に追いつくことしか、思いつかなかった。
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