HAZAMA

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私は妻だった女からよく言われていた。 「そんなに! あの女の子が気に入ってたの。じゃあ何で、わたしと結婚したの」 「あなた気づいているの? 毎日のように、あの女のこと話しているのよ」 「ねえ、ほんとうはあの女を買ったことあるんでしょ、泊めたんでしょ、ここに」 妻はほんとうに自分が口にしたとおりだと、信じていたのだろうか。 私は誰よりも妻を大事にして、ひとり息子を愛そうと努力してきたのに。 今の様子を妻と息子に見られでもしたら、どうなるだろう。 私の言葉なぞ、永遠に信じてもらえなくなる。 「いや、はなから信じてもらってなど、いなかったのか」 25年経って知ることができた、真実の味は苦い。 家族のうちで、私だけが気付いていなかったのだから尚更だ。 「やっと分かった? あなたは『あの子』を選ぶべきだったの」 すぐ右隣から聞こえた声は、元妻の声ではない。 家出娘の声でもなかった。 おもむろに振り向いた私が見たものは、化物だった。
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