HAZAMA

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美しい、と言ってかまわない(たぐい)の美的要素を、化物は持っていた。 人の体――おそらくの裸――に、黒猫の頭が乗っている。 首の滑らかさや顔の動きから、ひと目で被り物でないと分かる。 神話には首から上は獣の半人が出てくるが、こいつもきっとそうだ。 頭が猫だから、「猫女(ねこめ)」とでも呼ぶべきだろうか。 「もう少し。全てが終わって、新しく始まる。来て来て来て」 声は人のものではなかった。 猫の喉から出しているからだろうか。 それとも猫の口から放たれる人の声は、こう聞こえるのか。 「来いって、どこへ? 君が……つまり、じゃないか」 私の声も、緊張のためか上顎(うわあご)に張り付いたようで、変な響きを伴っていた。 「違う違う違う。は、』で、『あの子』本人じゃない」 猫女はトパーズのような目を私に向ける。 「今晩中に身代わりにならないと。あと1年、待つことになる。早く来て来て来て。……あの子の身代わりになるの」 ふだんは耳にしない、「身代わり」という言葉に、私の背中を怖気(おぞけ)が走った。
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