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SINGLE
私は「701」と書かれたドアを開け、自宅へ戻った。
かつての埋立地にある、築30年の25階建マンションだ。
胸の動悸が高鳴っていた。
スーツケースがひとつ、運河にぽつんと浮かぶ様を、先ほど橋を渡ってくる際にちらりと見てしまったのが原因だ。
あれは平成7年の8月24日、今日と同じ日付だった。
ちょうど25年、四半世紀も前に起きた出来事の記憶だ。
習慣で声をかけながら靴を脱ぐ。
返事はなかった。
部屋の中には誰もいないからだ。
昨年の冬に妻と離婚している。
息子は母親について行った。
音楽を聞きながらバーボンでも煽って、酒で不安を蕩かそう。
私は鞄をダイニングの椅子に置き、左手でネクタイを外しながら、右手で照明のスイッチを探した。
明るくなると、すぐに気が付いた。
女の体が、カーペットの上に、転がっている。
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